イブリスの仮面

□ペルソナ4
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世界を救う為に、ニュクスを救う為に大いなる封印となった湊さんのことを、それでも時々俺はなんて怖がりな人だったんだろうと思う。


一人だけ死にゆくこと。


彼の行動は端から見ればそう取れるのだけれど、俺みたいなヤツから見れば、皆と別れたくないから自分だけ永遠に『死』もなく『生』もない場所へ逃げたんじゃないかと思う。
認めたくないけれど俺は『大いなる全知の亜種』で、その影響なのか身体の死は来ても意識の死というものが今のところ来ていない。だから分かるけれど、この経験したことを全てずっと覚えている感覚は結構理想的なのだ。
辛いことも確かにあるが、必ずずっと覚えていたい幸せな思い出とかが人にはあって、俺や多分今の湊さんは、それを忘れられないでいられる。その記憶があれば、頑張れるというものが、あると言うのは強い。


けれどもそれは、ある意味虚構に近いものなんだろう。


目の前の辛いことから眼を背け、幸せな思い出だけを見続けることは、まさしく『見たいものだけ見ている』状態なのだ。
まぁ彼の事だから、本当に皆の明日を守りたかったって理由のほうが強いのだろうけれど。


俺はそんなに強くない。


例えば昔、俺は二番目の人生で親友の子孫の前で弱音を吐いた。自分は転生前の自分なのか自分の自分なのか。悩んだのは自分の持つ記憶が幸せなものだったからである。
結局どちらも自分の現実なのだと受け入れた。
ならば辛い事は、どうすればいい?
母親が俺を残して死んで、それを俺は置いていかれたと認識した。だから置いていかれる事が怖くて、一人で封印となるべく俺へ背中を向けた湊さんも受け入れられなかったまま。
『大いなる全知の亜種』だなんて訳の分からない自分のこと。それのせいで置いていかれるきっかけが生まれたのだ。いらなかった事実。
真実を見るとは、それを受け入れること。

「……なぁイブリス。一つ気付いたことがあるんだぁ」

召喚したイブリスが頭上から視線を俺に向ける。
それを口にしてしまうという事が、今のところ眼を向けるべき真実なのだろう。
けれど言葉にしてしまうのは怖くて、受け入れるのはもっと怖い。
見たくないものもきちんと見ること。それが出来るか否かで、アメノサギリが人に可能性を見出すとするなら。
眼から零れた涙が、イブリスに伸ばされた指で拭われる。月森達のペルソナがアメノサギリへ最後の攻撃を叩き込むのを滲んだ視界で見つめながら、イブリスの手を握り締めた。










「湊さん、一度も救ってほしいなんて、言ってないんだよなぁ」









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