イブリスの仮面

□ペルソナ4
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「お久し振りでございますな。お元気でしたか?」
「……そちらこそ」

ベルベット一色の部屋は何故か以前と違って車内の様になっていて、というか完璧車内で、以前より随分と狭くなっていた。だが常時二人しかいないのだろうこの場所は、客が来るといってもこの程度の広さのほうがいい気がする。以前の部屋は広すぎたのだ。

「一年ぶりになりますかな」
「彼女は?」
「エリザベスの姉のマーガレットです」

この部屋へ繋がる扉を見つけたのは偶然で、首にこの部屋の鍵を提げていたのも偶然だった。たまたま引き出しを掃除していて、たまたま鍵を見つけて、首に提げていただけ。
それだけの行為でも、少し悲しくなったのだから呆れたものだ。
これでは彼らに笑われてしまうだろうに。それどころか『彼等』にまで笑われてしまう。
マーガレットと紹介された女性は確かに雰囲気や顔立ちがエリゼベスに似ていた。当のエリザベスは何処へ行ったのかを聞こうと口を開く前に、目の前に紅茶が置かれる。

「妹は今、あの少年を助ける方法を求めに行きました」

カップへ伸ばした手が無意識にピクリと反応した。車内だというのに振動一つ無いせいか、紅茶の水面は氷の表面の様に揺れることが無い。

「……嫌味ですか」
「いいえ。そう聞こえたのでしたら謝りましょう。ですが私は事実をお伝えしただけです」
「俺は今ペルソナが無ぇんだぁ。何をすればいいのかも分かってねぇ」
「ご自分を冷静に分析するのですね」
「……分析って言えるほど、自分を客観視してねぇよ」

ミントでも入っているのか清涼感のある紅茶が今は喉に痛かった。マーガレットはそれ以上何も言うつもりは無いらしく、静かに膝の上の本を撫でる。

「今日はどういったご用件で?」

代わりにイゴールが口を開き、ここへ入る理由の一つとした質問を思い出した。

「俺が今来た扉から、俺や湊さん以外にここへ来る客がいるだろぉ」
「ええ居りますとも。ですがその方の名前までは……」
「いや、それはプライバシーの問題もあるだろうし、何人来てるかだけ教えてくれぇ」
「お一人でございます」
「ふぅん」

読みがなんとなく外れた気分だ。
俺が考えていたのは、ジュネスでテレビへ入るところを見た三人の高校生の誰かもしくは全員と、他の『誰か』がここへ来る資格と同時にテレビへ入れる力を得たのだと思っていた。
それは同時にペルソナを使える能力、あるいは二年前の様な影時間への適正能力とも置き換えられる。その力を手に入れた『誰か』が何かをしたことによって、クマクマ煩い彼が言っていた様にテレビの中の世界へ今までの被害者が落とされていたのではないかと考えたのだ。


そしてその人物は、おそらく『愚者』のアルカナだろうとも。


だがイゴールは、今は俺ともう一人しかベルベットルームへ来ないという。つまり高校生の中にこのベルベットルームへ来る者がいたら、俺が立てた仮説のただテレビへ人を押し込められる適正だけを持った人物がいるだけということになる。
ではどうして影時間の様なテレビの中が今になって動き出したのか、入れるようになったのか。テレビの中がどうなっているのか。影時間と同じものなのか。
情報が足りなさ過ぎて気持ち悪い。そんな俺をマーガレットが見つめていた。






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