イブリスの仮面

□後日談
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アイギスのシャドウだったメティス。ニュクスを『守る』為に封印を成している湊さん。
人々の悪意と死への渇望エレボス。……俺のシャドウとなって何処かへ消えたイブリス。
俺はアイギスさんや他の皆のように前を見ることは出来ない。それをするにはもう何度も死んで生き過ぎている。
自己犠牲になって死ぬ事も命の重さも、出会った人々との絆も、俺はきっと知っているのだろうけれど、それでも。


だからこそ、俺は自分の『命の答え』になんて辿り着けないでいる。


アイギスや湊さんと同じであったなら、俺はもうとっくの昔に、きっと最初に死んだ時にその答えへ辿り着いている筈だ。それが無いのだから俺はまだ前を向く事は出来ない。
何が足りないのかなんて、自分では分からなかった。
消えてしまったメティスがアイギスを庇いながら、俺の眼を見つめながら言ったたった二つの音。


『ダメ』


あの少女は、もういない。






四月一日の早朝。まだ他の皆が眠っている時間に、逃げるように寮を出た。俺は他の寮へは入らずアパートを借りている。
それでも同じ学校へ通っているのだから校内ではすれ違いもするだろう。でも一日中会うわけじゃない。
殆どの荷物は既にアパートへ送ってあるから、荷物は財布や貴重品とそれらを入れた鞄。
最近音の悪い音楽プレーヤーは捨てられない。
携帯は電源を切ってしまった。今は誰の声も聞きたくない。けれども湊さんの写真や電話番号が入っているから捨てられない。
二度と掛かってこないと分かっていても。
召喚器は書置きを残して置いてきた。
鞄へ付けているちりめん作りのキーホルーダーが揺れる。いい天気だろうに温かさは感じられない。






兄さんが困るだろうから、死にたいとだけは思えなかった。






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