IBLISの宇宙

□暁の天使
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フォンダム寮の個室、本を読んでいたシルビはふと顔を上げると無言で本を閉じた。腕輪とウォレットチェーンを身に着けているのを確認し、机の上に置いていた携帯端末を手に取る。
しかしそれで通信をしようとして手を止めた。
シルビとしては誰に繋げれば良いのかも分からなかったし、繋げる相手が居たところで何と言えばいいのかも分からなかったからである。結局シルビは何もしないまま携帯端末を机の上へ戻した。
椅子の背凭れへ身体を預けるように深く寄りかかり、左手をこめかみへと伸ばす。
そのまま目を閉じて微動だにせず、暫くして目を開けると改めて携帯端末を手に取った。繋げる先はこの大学惑星の外。

「……もしもしリズ。夜分遅くに悪ぃ」

電話の向こうにいるシルビの『家族』は、夜中に関わらず『家族』の声を聞いて嬉しげである。

「今から出来れば一時間後、いや三十分後、俺に急いで寮を抜け出せる理由と学校を休めるアリバイをくれると嬉しい」

楽しげな『家族』の声に反して、シルビの声は単調だ。通信機の向こうの『家族』は、唐突であっても大して気にしている様子も無く、いつもの通り何も聞こうとはせずに了解の返事を返しすぐにそうするといって通信を切る。まるでシルビの頼みには服従しなければならないとばかりの潔さだったが、シルビが自身の『家族』を信頼していることは確かだった。
携帯端末を机に置き、再び本を手に取るものの開かない。数十分後、寮監が訪れてシルビの故郷から母親が倒れたという知らせが入ったと伝えに来た。
寮監に礼をいい、素早く身支度と荷物を調えて寮を出る。寮の入口には寮監が手配してくれたらしい車が既に来ていて、シルビはそれに乗ってボスモラス宇宙港を目指した。
離発着案内所へ着いたものの、この宇宙港は主に貨物船が利用する港であり、そもそもがシルビの故郷である星へ向かう便も出ていない。夜中であるという事もあり人の姿さえ殆ど無いというその場所で、シルビは一度だけ時計を確認して掲示板の前へ立つ。
暫くして案内所へと入ってきた人達を見て、やっとシルビは自分の行動が間違っていなかったと安堵した。

「リィ。シェラ!」
「シルビ?」

来たのは先日途中入学をした金色と銀色の少年。それに輸送船《ピグマリオン》の船長として有名なダン・マクスウェル。そしてもう一人居たが、その人物を一目見たシルビは嫌なものを見たとばかりに顔を顰めた。

「なんでこんな……まぁいい。君達、さっき変な現象があったことに気付いたかぁ?」
「貴方もお気づきに?」
「ちょっと待てリィ! なんだってこんな『存在』がここにいる!?」
「デモン?」
「コイツは……」

デモンが思わず叫ぼうとしたところで新たな顔ぶれが現れる。シルビはちょっと嫌な顔をした。






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