イブリスの仮面

□ペルソナ3
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荒垣視点


不良の溜り場となっているそこは、新生活が始まったばかりという四月の中頃でも、相変わらず社会から外れた愚か者たちがたむろしていて、自分もその一人だと認識しながらも荒垣は胸に溜まる不快さを舌打ちで誤魔化した。
路地裏の必要性もさほど分からない数段だけの階段に腰を降ろし、そこから見える廃れた駐車所を見つめる。
今日も今日とて、何も変わりはしない日。だった。

「……!?」

背中に軽い衝撃が走って、荒垣は驚いて後ろを振り返る。が、それは途中で荒垣のことを後ろから抱き締めている誰かによって阻止された。肩越しに見える、濃紺のパーカーのフードを被った、見覚えの無い人物。
そこら辺にたむろしている不良とも、未成年なのに粋がって酒を飲んだ学生とも違う、この場所にそぐわない雰囲気だった。
ともあれ見知らぬ人物に抱き着かれたままで居るのも困るので、荒垣はそのまだ男とも女ともつかないパーカーの人物へ声を掛ける。

「オイコラ離せ」
「……すみません」

聞こえてきた声は、耳触りのいい少し大きめの、男の声。

「でもどうせアンタはここから動かねぇんだぁ。もう少しこのままでいるか、隣に座っても?」

敬語は最初だけで取り払われ、地の話し方なのだろう大きめの、語尾が間延びして聞こえる話し方で男は聞いてくる。訳の分からないまま荒垣はとりあえず、男に抱き着かれたままは嫌だったので隣へ座る事を許した。
のろのろと荒垣から離れた男は、荒垣の隣へ腰を降ろして自分の膝を抱え込み俯く。

「……やっぱりここを探して正解だったなぁ」

呟かれた言葉を聴いて、男が荒垣を目的としてここへ来たのだと理解した。だが荒垣には男の様な知り合いはいなかったし、一人を除いて自分を探す人物に心当たりもない。

「テメェ何者だ?」

若干の敵意と警戒心を混ぜて尋ねれば、男は抱えた膝の上に顎を乗せ、フードの陰から唯一見えている口元が歪められる。

「何だと思いますか?」
「知らねぇよ」
「俺もね、知らねぇんですよ。でもこれだけは知ってる」

振り向いた男のフードがずれ、隠れていた目が露わになるのを、荒垣はどうしてか悲しいのか嬉しいのかよく分からない気持ちで見つめた。
初めて見るのに、初めてに思えない紫の瞳。




「俺は、きっとチャンスを与えられたんです。本来は二度とない時間を、もう一度走り抜けるだけのチャンスを」






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