イブリスの仮面

□ペルソナ4
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「……ん……くん……アマネくん! 大丈夫?」

覚えのある声に呼ばれて眼を開けると、何処かの建物の中だと思われる廊下で、椅子に座っていた。
匂いと周囲の様子から、ここは病院だと知れる。だが、稲羽市の病院ではない。稲羽市の病院は廊下がもっと広かった。

「お父さん、病室へ運ばれたから、行きましょう?」

すぐ傍でそう言って俺の顔を覗き込む叔母は、二年前から顔を合わせていなかった俺の保護者の一人で、どうしてここにいるんだと思って理解に悩む。
とりあえず言われるままに立ち上がって、歩き出した叔母の後を追いかけた。

「お父さん命に別状は無いらしいの。あの子も私も軽傷だし、引越し予定日だったのにごめんなさいね」
「……引越し」

どういうことだと必死に考える。前を行く叔母は頭や腕に包帯を巻いていて、話の内容からもどうやら何かあって、また家族三人揃って怪我をしたらしい。
三年前といいよく事故に遭う家族だと思いながら、叔母の後をついて歩いていると、ふと入院患者の世間話が聞こえた。
その中に出てきた単語に思わず立ち止まる。

「どうしたのアマネ君?」
「……えーと、事故の相手、誰でしたっけ?」

俺が立ち止まった事で不思議そうに立ち止まって振り返った叔母へ尋ねた。返ってきた答えは三年前、叔父一家を巻き込んだ事故を起こしたからと何度も謝りに来たトラック運転手の名前。
入院患者の世間話から聞こえた言葉は『月光館学園の幾月理事長』
それは、二年前に死んだ人物の名前だ。なのに彼等は生きている人物として話していた。
周囲を見回してここが辰巳ポートアイランドへ行く前、事故に遭った叔父一家が入院した病院だと気付く。
どういうことかと混乱する頭に走る激しい痛み。思わずこめかみへ手を当てれば、三年前までは今生でも馴染みのあった痛みだと思い出す。
同時に、今の自分へ欲しい情報が脳裏に溢れ、更なる混乱と動揺が襲い掛かってきた。

「アマネ君?」

何も言えないでいる俺を不思議がって、叔母がもう一度呼ぶ。

「……叔母さん」
「なに?」
「今日、何年の何日でしたっけ?」

恐る恐る確認をするように尋ねた。
叔母が口にしたのは三年前、俺が月光館学園へ通う一人暮らしの為、引越しをする日の日付。
嗚呼、どういうことだと思うと頭痛を伴って情報が頭の中を駆け巡る。

「……そっか、これが代価なのかぁ」















イザナギの姿をした、『彼』からの代償。
俺は、どうやら過去へ戻ってしまったらしかった。







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