嘘吐き

□under my skin
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彼はそれ以降も変わった様子を見せず良い上司のままだった。



酔っていたせいで何も覚えていないのか、
あの一件も酔った勢いで大したことではなかったのか。

キス魔っているらしいし。




軽いキスなら俺も流せただろう。


しかしあまりにも衝撃的で会社で彼の顔を見る度、
思い出さずにはいられなかった。




だから資料室で東雲さんと二人きりになった時は大変だ。

全くと言っていいほど仕事に集中できない。



棚に並ぶ膨大な数の資料を探しているふりをしているが
意識はそっちのけである。

これじゃあいつまで経っても目的のものが見つかるはずがない。


無意識のうちに溜め息が漏れる。




「どうした?ルカ、
悩み事でもあるのか?」






東雲さんは大抵部下を名前で呼ぶ。





「あ、いえ…すみません。」

鮮烈にまたあの出来事が頭を打ち付ける。






「あの、

………


あのこと覚えてますか?」

「え?」


「忘年会の…」

「…」


「あ、やっぱなんでもないです。

大したことじゃないですから…」




事実を確認するようなことではないと思っていたのに、
制御するより前に口が動いてしまった。




「覚えてるよ。

酔ってて忘れてるとでも思った?」


聞いたはいいが、
覚えていると言われてどう返答すればいいのか分からない。


「まだ怒ってる?」


くすりと彼が笑う。



怒ってなんかいない。
文句を言いたくて聞いたわけじゃない。
謝って欲しいわけでもない。



だったらなんだろう?


自分自身が求めている答えが分からなくなった。



「ルカ、ごめん。」



資料棚に手を掛けうつむく俺の背中に大きな体温が伝わった。



後ろから抱き込まれていた。

脇の下に腕が回り俺の腹の前で手を組んだ状態だ。



俺より背の高い東雲さんの唇が髪に触れている。

心臓がきゅっと縮む感じがした。


「アルコールも入ってどうしても止められなかった。

ルカ…」

耳に唇が触れると、ぴくりと体が跳ねた。


体が熱くなるのが分かる。






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