嘘吐き

□take it easy 第4話
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何故だかあの日以来、宮脇の俺に対する態度が変わった気がしてならない。



俺は目の前でテニスをする宮脇と柏木をパラソルの下で眺めていた。





「あの二人って小動物みたいですよね。」


缶ジュースを両手に持った好青年が隣の白い椅子に座る。


宮脇や柏木と同じ店舗で働く狭山だ。


狭山は俺に缶ジュースを一つ手渡した。


「炭酸、飲めます?」


「あー、うん。ありがと。」




何故今こんな状況になっているかというと
彼らが働いているビルが明日休館日のため『泊まりがけで遊びに行こうぜ』なんてことになったからである。

因みに俺は宮脇から強引に誘われ、有休を取る羽目になった。


というわけで、皆仕事終わりに宿まで来たのだ。

つまり、パラソルの下なんぞに留まっているが、空は漆黒である。


星は瞬き、月灯りは美しい。

明日は晴れに違いない。






普段はあまり飲まない炭酸飲料をちびちび口にしていると、
狭山がテニスコートを見据えたまま話し出した。


「榊さん。
宮脇は百発百中らしいですよ。」


「は?」


「百発百中なんです。
狙った獲物は絶対逃がさない。
手中に収めるんです。
女は勿論、男もですよ。」


「え…」




俺は宮脇と柏木の酔っ払い騒動を思いだし
嫌でも不意打ちの軽いキスが鮮烈に蘇ってきた。





「魔性ですよね。」

「あ、あー。」



こんなことを表情一つ変えずに話す狭山もただ者ではない、という気がした。



俺は気が重くなった。












:::













まさかなー、と思いつつも狭山の言葉が頭に張り付いて宮脇の一挙一動に気を取られる。





せっかくだから、と宮脇の提案で一部屋に集まり床に円を作って食べ物を囲んでいる。


修学旅行で恋バナに花を咲かせる女子高生みたいだ。


前にいる宮脇は特に変わった様子もなく唐揚げを美味しそうに食べている。


気にし過ぎだよなあ、と俺も道中コンビニで買ってきた夜食を食べる。




「そういえば、さやマンさんって彼女いるんですか?」

宮脇が唐突に尋ねる。


狭山は細い指でポテチを摘みながら視線は合わせず

「いるよ。」

と答えた。


「ですよねー、かっこいいもんなあ、さやマンさん。

で、どんな子なんですか?」


「あ、俺も気になるー!」

柏木も楽しそうに話題に加わる。



「可愛いんだけど、最近ちょっと話題が合わないなって……



所謂、ジェネレーションギャップですかね。


俺、
制服着てる子にしか興味ないんで。」


皆は目を丸くしたが、酒の効果も手伝ってすぐに
「ロリコンかよー!」
なんて言いながら盛り上がった。






実際、狭山は高校生以下にしか興味がないらしく
俺の『ただ者じゃない』という勘はあながち間違っちゃあいなかった。


「勿体無いよね、狭山くんくらいセクシーだったらいくらでもイイ女寄って来そうなのに。」



「店長こそ、実は色っぽいのになんで最近一人なんですかねえ?」


「本当、不思議ですよね。
俺、店長のココとか超好き!」

ほろ酔い気分の宮脇が柏木の首筋から鎖骨にかけて指を滑らせた。

顔は可愛いがやることは相変わらず恐ろしい。



「宮脇、あんまり店長を困らせるなよ。」

狭山が抜群のフォロー入れる。

が、

「まあ、俺は榊さんのが好みですけど。
やっぱりロリ趣味なんでショタっぽい方がいいのかなあ?」
なんてへらへら笑いながら更に恐ろしい発言をする。

洗練された見掛けに似合わず酒にはめっぽう弱いようだ。


缶ビール2本で出来上がった様子の狭山は

「榊さんって本当に若く見えますよねー、高校生みたい。」
と嬉しそうだ。




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