嘘吐き

□take it easy 番外編「吾が輩はバイである」
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はいはい、無視ですか。
とか思って俺も適当に箒を動かす。




「?」


目線を下に落とすと丸くて黒いシミが床にポタポタとできていた。


そのままシミを目で辿ると案の定そこには先生がいたわけで。





ありえねー。
と思う反面なんかこれは面白いことが起こりそうだと期待してしまった。


他の生徒に泣いてるのがバレたりしたら先生も可愛そうかなあ?と思い
なけなしの良心で彼の手首を引っ張る。


「先生、俺聞こうと思ってたことあったんだ!」



ってわざとらしく言いながら。




「やめろよ!」
とか抵抗してくるけど無視。


俺は隣にあるけど滅多に使わない特別教室に彼を連れ込んだ。



ここで優しくしたら面白いほどまた揺さぶられるんじゃねーの?って期待いっぱいに。





とりあえず鍵はかけておく。



「俺が若い新人の講師だから馬鹿にしてんの?」


先生はさっきから俯いたままだ。



「あ、ごめんなさい。そんなつもりはなかったんだけど。俺…つい」


わざと不安げな態度をとってみせる。



「ついってなんだよ。
2度とそういうこと人に言うな。」



久しぶりにこっちを向いた彼の目は驚くほど潤んでいて
俺はその目に不意をつかれた。





「ねえ、先生?
本当にごめんなさい。
そんな傷つけちゃうなんて…」


目をうるうるさせて先生はずっとこっちを見ている。



そんな目で見られるとなんか、やばい…。





“弄んでやろう”なんていう浅ましい好奇心が明らかに形を変えた瞬間だった。









俺は先生をぎゅっと抱きしめていた。




今にも涙が零れ落ちそうなくらい潤んだ先生の瞳がとても近くにあった。



いつもはあんなに強がってるのになんて弱々しいんだろう。






至近距離で目が合うと先生の頬が紅く染まる。



なんて分かりやすい人なんだ。




「放してよ、宮脇。」


今まで聞いたことがない切ない声で先生は言った。





俺は言われるがまま先生を放して最後に彼の頬についた涙の跡を拭った。






「今日は俺も悪かった…。」

先生はそう言い残して教室を出て行った。




俺は呆然としてしまった。








潤んだあの色っぽい目が忘れられない。


そして、切ない声。



細い身体。










―ねぇ、先生はなんで泣いたの?―







俺はこのままこの事態を放っておくことができなくて先生と話せる口実を作った。






「ねぇ、先生?
今日の放課後数学教えてくんないかな?
もうすぐテストじゃん?
俺やっぱバカみたいで全然分かってないんだよねー。」



あっけらかんとして言ってみる。





「また忘れたのかよー、
分かったよ。
じゃ、放課後隣の教室で待ってろ。」



先生もいつも通り。




まあ、生徒から指導を申し込んでるんだから教師としては断れないよね。








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