嘘吐き
□take it easy 番外編「吾が輩はバイである」
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※第3話を踏まえて
俺の名前は宮脇 景。
ゲイではない。
バイである。
容姿に恵まれ、上司にも恵まれ今は特に不満もない。
しかしどうも狙いが定まらない。
それが最近の俺の悩みだ。
というのも俺の上司、店長の柏木創太のハートをどうも打ち抜けていないらしい。
俺は今まで男も女も百発百中。
この猫のように可愛い顔立ちと抜群のスタイルで落とせないものはなかった。
まず、中三の時に好きになった家庭教師のお姉さん。
「ねぇ、もっと違うこと教えてよ…」
なんてベタな台詞で甘えてみたらイチコロ。
すぐに深いキスをくれるんだから。
それから味をしめた俺は高校のクラスメイトや先輩、後輩(いずれも女)を、どんどん落としていったわけである。
つまり高校生の途中まで恋愛対象は女の子だけだったのだ。
しかし、高校2年の夏休み明け…。
担任が産休に入り、その臨時講師でやってきた若い男が俺の人生を変えた。
その男は身長160cmくらいの小柄なやつで、華奢だった。
そしていつも冷静で感情を表に出さない。
可愛い顔してるがどこか腹黒そうだった。
俺は何故だかそいつのことが気になった。
俺の苦手な数学を担当していた彼は
俺の出来の悪さを嘆いた。
「こないだ教えたばっかだろ?
ちゃんと話聞いとけ!どうせ解んないんだから。」
いや、“嘆いた”というより“罵った”の方が正しいかもしれない。
彼は俺に対して特に厳しい(ドSな)態度をとっていたように思う。
それが、
勘のいい俺は『強がり』だってことにある時気付いてしまった。
「ねー、先生これやっぱ分かんないよー。」
黒板に問題の解答を書く番が回ってきた俺。
「はあ!?前にも説明したじゃん!ちゃんと聞いてたの!?」
「だっておまえの教え方わかんねー。」
「…」
あ、やべー。
本気でちょっと凹んだだろ、今。
「もっかい教えて?ね?」
ちょっと良心の痛んだ俺は優しくお願いしてみる。
「わかったよ、
マジで手の掛かる生徒だな!メモリ少ないおまえに教える身にもなってみろ。」
いつもより沢山返ってくる言葉。
ははーん、景ちゃん分かっちゃったもんねー♪
てな感じで俺はこの男で遊び始めたわけだ。
ちょっと突き放してはまた引き寄せる。
俺は感情を弄ぶことの楽しさを覚えてしまった。
「ねえねえ、
先生って何かと俺に構ってくるよね。」
「は?何言ってんの?おまえが何回言ってもわかんねーからだろ?」
「ほんとにそれだけ?
なんかさー視線感じんだよね。
それ、ウザイからやめてくんない?」
はーっ!だめだ、
放課後の教室だというのにドSな景ちゃんが…
先生の箒を動かす手がピタリと止まる。(仮にも掃除中)
「だから、おまえの出来が悪いからちゃんと見てやってんだろ?」
ぼそりと低い声で呟く。
俯いたまま決してこっちは見ない。
「そーゆうのいらないから。」
加虐心に火がついた俺は冷たく言い放つ。
またいつもみたいに悪態をついてくるかと思えば黙って掃き掃除を再開してしまった。
生徒にこれくらいのこと言われて凹んでるようでは教師は務まりませんよー。