嘘吐き

□take it easy 第3話
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彼は酔っている。






「てんちょぉお…
今日はもう帰れませんんんー!」




「っ!何すんだよ!ちょっと、バカ!」




柏木が襲われている。


相手は同じ店舗の後輩である宮脇だ。




最悪だ!



たまたまコンビニ行った帰りにマンションの前で見つけてしまったなんて。


彼らの存在をスルーして何気なく帰っていくのは不可能だと判断し
俺は暫く物陰に隠れて様子を伺うことにした。






「ちょっ、なんなの!?」


「ね。とりあえず、さ、家に入れて下さい。」




状況を説明しておこう。


面倒な解説だが、俺のマンションとその隣の建物の間は人1人通れるくらいのとても細い路地になっている。

今、宮脇はその路地で柏木の両手を恋人繋ぎで拘束し、
マンションの塀に押しつけている。


そして今にも唇と唇が触れ合いそうな距離にいる。




くそーーー!




ちなみに宮脇は相当酔っている様子で、柏木もまあまあ酔っているようだ。





「ねぇ、店長?本当帰れないから、俺。」



だからその距離で喋るんじゃないよ!


彼らは殆ど背格好が一緒の為、ちょっとした瞬間に本当に触れてしまいそうなのだ。


見ていてひやひやする。





「分かってるよ…だからさ、家泊まってくんでしょ?

分かったから、ちょっと手、離して…」


「嫌ですー!!」





あ!



ぎゅってしやがった!


宮脇は柏木を強く抱きしめている。





「離したくない。」


「なんなの、いきなり!?」




「ねえ、店長…俺のこと好き?」



「え。
あ、うん。
好きだよ。」



一瞬、絶叫したくなったが、これがまあ普通の回答だ。
そうだろう。


ここで好きじゃないと言う方が不自然だ。




「そっか良かったあー!
じゃあ、さっさと家に入れて下さい♪」

宮脇がルンルンした様子で次は柏木と腕を組んだ。


「もー分かったって…、

じゃ、こっち来て
景くん。」



ケ、
ケイくん!?



「はーい!そうちゃん♪」



そうちゃん!?


なんだなんだ!
一体この二人はどういう関係なんだ。


マンションへ入っていく二人に続いて
コソコソと俺も中へ入った。


因みに、言い忘れたが柏木のフルネームは柏木創太である。


俺なんか名字でしか呼んだことないのに!




あほ二人はエレベーターに乗ったので
俺は存在に気づかれないように階段を使い
必死で駆け上った。

息をきらして4階にたどり着くと
柏木が部屋の鍵を開けていた。

その横には腕を組んでべったりくっついている宮脇がいる。

よく聞き取れないが何かむにゃむにゃ言っている。


どうすればいいんだ!



「何やってるんだ、やめろ!」

なんて言って割り込んでいくのはおかしい気がする。

彼らのプライベートなのだから。


いやしかし、
こうやって見張っている時点で俺は十分不審者だろう。





色々考えてもやもやしているうちに
二人は部屋に入ってしまった。



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