嘘吐き

□take it easy 第2話
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あれからというものの柏木は職場で俺と会うのがなんとなく恥ずかしいようだ。


俺はしれっとした顔で挨拶してみるけれど、
実際に恥ずかしいこと言ってるのは俺の方だろう。




「どう?あれから泣いてない?」


「っ//バカ!仕事に関係ないことは今言わないで下さい。」


「バカって言うなよ!バカ!報告書にめちゃくちゃ書いて提出してやる!

柏木店長は寝ながら服畳んでますって書いたる!」

「もう…大人げないこと言わないでよ…、こんな人がSVで大丈夫なんですか…。」

「おまえ、許さねー!懲戒免職!」


「はは、
最近、キャラ変わりましたね。」






なんかムカつくが、確かに俺は柏木の前では肩肘張らずにいられた。

こいつのおかげで俺の生活に光が射したのも事実だ。





終電近い電車の走る音を、ソファに頭を預けて聞く。

白いカーテンの向こうにはまだまだ眠らないネオンたちが見えた。



いつも通りの夜だ。



少し違うのはバスルームから聞こえるシャワーの音くらい。




俺は今まで寝る女以外、他人を自分のバスルームに入れたことはなかった。



まあ、でもこいつだからいいかってなんとなく使用を許したが…













「ねー!榊さん!バスタオルこれ使うよ!」

ハッとして声の方へ駆け寄ってみると
俺がさっき自分の体を拭いたそれを使おうとしていた。


「こらっ!これは俺が使ったやつだからやめろ!」


「あ、すいません……


潔癖。」

「はぁっ!?」

俺は嫌なんだ。
潔癖と言われようが他人と同じタオルで体を拭くなんて許せない。

だから風呂だってできるだけ誰にも使わせたくない。




しかし

「榊さん、俺んちお湯出なくなっちゃった。」

なんて困った顔で友人に言われたら

『仕方ない、家の風呂を使いなさい。』
と言うしかないではないか。



困ったものだ。

とりあえず柏木には新しいバスタオルを与え俺はソファに戻った。








「あー、助かったー」



電気を消して一人でまた外のネオンを見ていると隣に柏木が座ってきた。



シャンプーの匂いが部屋中に広がる。


俺と同じ匂いだ。


窓側に向けていた体を反対に向けると
濡れているせいでいつもよりくるくるしたパーマの柏木がにっこり俺を見ていた。





「なんだよ…」





「別に。
それにしても肌寒くなってきましたね。」

「うーん、そうだな。窓締める?」


「大丈夫ですよ。風呂上がりで気持ちいいし。」


「そ。」


ソファにもたれて目を瞑ると柏木の手が俺の頬に触れた。


「最近また無理してるんじゃないですか?」


彼の親指が俺の睫をなぞる。



「そんなことないよ。」

「嘘、睫が震えてる。」

驚いて目を開けた。
「榊さん、疲れてるとき目を瞑ると睫がね、こー小刻みに震えるんですよ、泣いてるみたいに。」


自分でも気づかない細かな変化をこいつは知っていた。

他人の方が俺をよく知るなんて今までじゃ考えられないな、と思った。



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