嘘吐き

□take it easy
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晴れた空。
9月初旬。
まだ蒸し暑くて蝉の声も相変わらず。

俺はマンションのベランダでパックに入ったリンゴジュースを
ストローでちゅーちゅーしながら朝日が昇るのを見ていた。

“今日も仕事かー。”

暑さでダルい体をなんとか動かして支度をする。
肩にへばりつく少しだけ茶色い髪が気持ち悪い。





俺が住んでるマンションに一番近い駅から5駅。


俺の職場はそこにある。

アパレル会社の本社勤務でスーパーパイザーとして受け持っているエリアの店舗を回る毎日だ。


『ここはこーした方がいい』
『そこはなんでそーなんってるんだ』
とかなんとか店長にダメ出しして
まあ、偉そうな仕事をしてるわけである。

本社から一番近い店舗に出向く回数は自然と多くなる。



















「おはようございます!榊さん。」



よく見知った顔の店長が笑顔でこちらを向く。

さすが店員。
すぐに満面の笑みを造れるのだ。

「おはようございます。」
俺は軽く頭を下げる。

「最近よく来られますね。目つけられてるんですか?うちの店舗。」

「まあ本社から一番近いし、一番監督しないといけないし。


…しかも店長お前だし。」


「あーそうか、すみません。」と言いながらその店長はいたずらっぽく笑った。


「あ、そういえば、ここリニューアルすることになったから
その間、柏木店長には本社の仕事手伝ってもらいますので。」

簡単な改装なので2週間くらいで完了するであろうことを付け加ると
柏木は"短い間ですが宜しくお願い致します"、と手を差し出した。


その手は俺のそれより一回り大きくて華奢だった。

そして、
とても優しかったんだ。












近頃俺は優しさに飢えていた。

きっとそうなんだろう。


あの手が忘れられなかった。



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