青天の霹靂

□青天の霹靂
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実仁は道行く人の楽しそうな顔を見た。


(いいな―…、)


皆空と同じように晴れ晴れとしている。
雨が上がった外はとても暖かそうで。


そして、実仁は風と共に立ち上がった。



(外 行こうーっと、)




着慣れない着物で小走りした。
そして履き慣れない下駄を履く。
歩く度に高い音が鳴る。
それは綺麗な音で、
もう一度鳴らしたくなる程。





そして、勢い良く玄関の戸を開けた。







――高允に外に出るな、と
言われたことも、忘れて。




外はまだ微かに喜雨の残り香がした。
それは嫌いな匂いではなく、
実仁は大きく深呼吸をした。


(探検 しよ!)


カランコロンと実仁は音を残して歩き出した。
初めて見る古い街は、何もかもが輝いて見えて、先程までの退屈も飛んで行く。


実仁は五感を研ぎ澄ませた。



年季の入った家々

目に触れる冷たい空気

桃色の着物を映す水たまり

厭えない雨の匂い

家から聴こえる微かな話し声

届かない空



五感が全て機能する事に喜んだ。
変わったのは、時代だけなのだ、と。

(わたしは何も 変わらない、)





街を暫く歩き続けていると、人気のないところに出てしまった。

地には黄金色の薄が高々と生い茂り、奥が見えない。
背の小さい実仁には尚更の事。


(これ以上は いけないな…)


そう思って元来た道を戻ろうとした時、



―――ザアァー…




「――あっ、」


川のせせらぎが聞こえた。

それは何時か聞いた音。

(近くに、ある、)


実仁は身の丈程ある薄を掻き分けながら、音の元を探した。
手に当たる度こそばゆいが、気にしてはいなかった。



そして薄が少なくなり、


「か、わ だ…、」


そこは、高允と会った川。

この世界への入り口。

出口かも知れない。


(意外と、近かったんだ…)






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