僕のヒーローアカデミア小説

□紅蓮ノ恋情6
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消毒液の匂いが漂う病室のなか。ベッドに横たわる出久は高く白い天井をぼんやり眺めていた。


轟が駆けつけてくれたあのあと、ヒーロー殺しを確保することは出来た。出来たけど・・・。

「今回は運が良かったんだろうな・・・」

ポツリと呟き、事件の顛末を思い返す。今回は上手いこと危機を脱することが出来たが毎度そう上手くはいかない。もっと力をつけなければ・・・。助けを求める人を救うために・・・。

決意も新たにしたところで病室のドアが開いた。中に入ってきたのは轟だ。出久、飯田、轟の三人は事件後、同じ病院に収容された。最も怪我の度合いが大きかった飯田だが今日の午前中に親御さんに連れられ病院を後にした。心配ではあるが迷いは晴れたようには見えた。あとは彼を信じ、影ながら支えることしか出来ない。一方、三人の中で一番怪我の度合いが酷くなかったのが轟だったわけだが・・・。

「診察の結果、どうだった?」

今しがた診察を受けてきた轟へ出久は控えめに問う。すると轟は顔色一つ変えず「問題なかった」と答えた。

「一応、今日までは様子見で明日には退院してもいいそうだ。まぁ、この程度の怪我だしな」

付け加えて告げた轟は自分のベッドには戻らず出久のベッドの端へ腰掛けた。パイプベッドが軋む音と振動に思わずドキッとしてしまう。

考えてみれば轟と二人きりになるのは数日ぶりだ。今朝までは飯田も居たし、轟も自分も学校で顔を合わせるよう普通にしていた。けど、今は・・・。

「緑谷は、少し重症だな・・・。痛いだろ?」

飯田が居たときには見せなかった切ない表情で包帯が巻かれた膝を撫でてくる。包帯越しに轟の体温が伝わってきて、またドキッとした。

「大したこと無いよ。個性使った時の方が酷いし・・・」

気持ちを落ち着かせようと笑顔で冗談めかして言う。しかし轟は表情を変えず口を開いた。

「確かにな・・・。けど、今回は他人から・・・しかも敵から受けた傷だろ?正直、怖かった。お前を失うかもって・・・」

「そんな・・・。大袈裟だよ」

沈んだ口調の轟に出久は苦笑いで返した。そりゃあ怪我をしないに越したことはないが敵と交戦すれば大なり小なり怪我をする。それが当たり前だと思っていたのだが・・・。

「大袈裟じゃねぇよ・・・。お前から救援要請受けて、現着して・・・倒れてるお前を見たとき背筋が凍った気がした。プロになれば敵と遭遇するなんて日常茶飯事だし、誰かのために体張るのも当然だって頭では分かってる。けど・・・」

言葉を詰まらせた轟は泣きそうな顔で頬を撫でてきた。

「けど、傷付いたお前を見るのは辛ぇ・・・。友だち助けたいって気持ちは分かるけど、お前にもしものコトがあったらって考えると怖くて堪んねぇ・・・」

「轟くん・・・」

本気で心配してくれているのが伝わってきて胸に痛みが走る。今までも決して自分の身を蔑ろにしていた訳ではない。けど、傷付くことに対する恐れはなかった。鍛練にしても交戦にしても傷を負うのが日常になっていて恐怖心というものが薄れていたのかもしれない。だから、だろうか・・・。

「だから、生きてくれ。何があっても・・・。お前が居ないと俺は生きていけねぇから」

轟の言葉が胸に沁みる。こんなにも真剣に自分の身を案じてくれるのは親以外に轟しか居ない。

―――いや、そうじゃないか・・・。

自分が気づいていないだけで他にも心配してくれる人は居たのかもしれない。憧れの的であったオールマイトも飯田や麗日も・・・。身近な彼等も大なり小なり自分を案じてくれていた。なのに気付かなかった。こうして轟に言われるまで・・・。

「うん・・・」

改めて自分の身の大切さを思い知らされた出久は素直に頷き、微笑んだ。それに安心したのか轟も微笑み、優しく頬を撫でてくれた。

不思議だけど今は轟と居ることを幸せに感じている。同時に轟に対する自分の気持ちを理解できた。

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