僕のヒーローアカデミア小説
□紅蓮ノ恋情3
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ふと意識が浮上して出久は重い瞼を開いた。視線の先には窓から射し込む夕陽で赤く染まった畳の床と座卓がある。見慣れぬそれらに一瞬、自分が何処に居るのか分からなくなった。
「ん・・・」
反射的に起き上がろうとした出久の背後・・・。
「起きたのか?」
聞き覚えのある声が至近距離から聞こえてきて起き上がろうとした体を止める。代わりに肩越しに背後を振り返ると寝起きらしい轟の姿があった。
「え・・・?轟くん!?」
あまりに近い距離に轟の顔があって驚いた。
「はよ・・・。つか気持ち良さそうに寝てたから俺もつられた」
当の轟は呑気にそんな事を言うが笑顔で返答する余裕などない。何せ横たわる自分の背後から轟が抱きつくよう腹に腕を回しているのだ。
何故、轟は自分に抱きついて寝ていたのだろうか・・・。というか、この状況は一体・・・。
有り得ない現状に頭が付いていかない。
「そ、そう・・・て、あれ?」
それでも、どうにか轟に言葉を返した出久は、ふと違和感を覚えた。なんだか妙に下半身が涼しい。
「どうした?」
轟の声を近くに感じながらも足を擦り合わせてギョッとする。無いのだ。穿いていた筈の下着が・・・。
(なんで・・・!?)
記憶を辿ろうにも、ずっと眠っていたから覚えもない。まさか、眠っている間に脱いでしまった・・・とか?有り得ない事だが絶対にないとも言えない。
「あ、あの、なんでも・・・」
とりあえず轟に知られるわけにはいかないと言葉を濁して誤魔化す。しかし足を擦り合わせているのに気が付いたらしい轟は何もかも悟ったような顔で口を開いた。
「あぁ、パンツな・・・。寝てる間に汚しちまったから脱がせた」
驚きの真相だ。
「うそ・・・」
余りに衝撃的な真相に出久はそれ以上、なにも言えず青ざめた顔で固まった。人様の自宅で眠りこけた挙げ句、下着を汚してしまっただなんて・・・。どのように下着を汚したのかは定かでないが、おそらく眠る直前まで茶を飲んでいたのが原因だろう。とりあえず着物まで汚していないのは不幸中の幸いだが・・・。
「マジ。さっき洗ったばっかだから替えは俺ので我慢してくれ」
「う、うん・・・」
すっかり気落ちしてしまった出久は轟の言葉も聞き流し、俯いて唇を噛み締めた。どうにか堪えてはいるが油断すると涙が溢れだしてしまいそうだ。情けないし、恥ずかしい。轟には申し訳ないが、これ以上、自分の惨めな姿を晒していたくない。
(早く帰って、今日のことを忘れたい・・・)
そう思う出久の背後。
「そうだ、緑谷・・・」
轟がまた声を掛けてくる。こんな状況で轟と目を合わせるのは辛い。
「なに?」
だから俯いたまま先を促すと轟は平然とした口調で続けた。
「俺、お前が好きみたいなんだ」
とても普通に・・・まるで「今日の夕食は何が食べたい」と言うよう、アッサリとしたものだった。
「は・・・?」
だから轟が何を言っているのか理解できず出久は呆けた声を出して顔を上げた。見るのも辛いと思っていた轟の表情は普段と全く変わらない。とても“好き”だと告げてきた人間の顔付きではなかった。
単に友人として好きだと言ってきたのだろうか?いや、そうだろう。同性だし・・・。
「本気だから。考えといてくれ」
そう思うのに轟がそんなことを言うものだから出久は慌てた。もうパンツがどうとか落ち込んでられない。
「あ、あの!冗談、だよね・・・?」
勢いよく問い掛け、作り笑いを浮かべる。笑ってさえ居れば轟も冗談だと笑ってくれるような気がしたからだ。しかし・・・。
「本気だって言ったろ?」
次の瞬間、轟は明らかに不愉快そうな顔をした。なまじ整った顔立ちをしているから眉を寄せるだけでも迫力がある。
「・・・なんなら証拠見せてやろうか?」
急に怖くなって固まってしまうと轟は低い声で囁き、体を起こした。
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