僕のヒーローアカデミア小説

□紅蓮ノ恋情
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体育祭も終わり、連休明けの学校。

「緑谷」

呼ばれて振り返ると背後には轟が立っていた。同じクラスに所属しているものの彼とまともに話すのは体育祭以来だ。

「お前、これから用事あるか?」

「え?ううん、特に用事はないけど・・・」

唐突の質問に困惑しながらも答えると轟は表情も変えず切り出した。

「なら、俺の家に来ないか?」

「轟くんの家に?」

これはビックリだ。大して話もしたことがないのにいきなり自宅へ招待されるだなんて・・・。

思わず戸惑う素振りを見せると轟はシュンと肩を落とした。

「迷惑、だったか・・・?」

悲しそうな顔で問いかけてくる轟の姿が捨てられた仔犬のように見えて出久は焦った。冷たい印象しかなかった轟が、まさかこんな顔をするなんて・・・。

「そんなことないよ!むしろ僕なんかがお邪魔してもいいの?家族の人とかに迷惑かからない?」

慌てて否定すると轟は表情を元に戻した。

「それは大丈夫だ。今日は誰も居ないから」

「そ、そう?なら、お邪魔させてもらおうかな?」

きっぱりと言われて断る理由がなくなった出久は流される形で了承してしまう。展開が急すぎて困る。というか轟が何を思って自宅へ招待してくれたのか全くわからない。けど・・・。

「あぁ・・・」

酷く嬉しそうに笑う轟が何だか子供のようで可愛らしく見えてしまった。





轟に連れられるままついてきた出久は目の前のどデカい日本家屋を前に固まった。No.2ヒーロー・エンデヴァーの自宅だから大層立派なのだろとは思ったが予想の遥か上をいく豪邸に気をくれしてしまう。

「スゴいお家だね・・・。なんか昔話に出てくるお屋敷みたいだ・・・」

思わず呟くと轟はきょとんとした顔で首を傾げた。

「そうか?まぁ、気にせず上がってくれ」

どうも轟には自分の驚きは理解できないらしい。それはそうか、物心つく前からこの家に住んでいるのだから・・・。

「う、うん。お邪魔します」

促されるまま玄関から上がった出久は轟の後をついて歩く。長い廊下から始まり道々にある襖が開け放たれた部屋に至るまでお伽噺に出てくるお屋敷ような広くて趣のある造りだ。

「ここが俺の部屋だ」

そんな中、轟が廊下の一角にある部屋の襖を開き、出久は目を見開いた。

「わぁ、畳の部屋だ!スゴい、広い!」

部屋の中に足を踏み入れると畳独特の匂いがしてテンションが上がり思わずはしゃいでしまう。

「適当に座っててくれ。茶でも持って来る」

隣に立つ轟は穏やかな表情で微笑み、踵を返した。どうやら台所で飲み物を用意してきてくれるらしい。

「あ、僕も手伝うよ」

「いい。緑谷は休んでてくれ」

せめて運ぶのくらいは手伝わせてもらおうと申し出たのだが笑顔で遠慮されてしまう。人様のお宅だし勝手をするわけにはいかない。

「うん、ありがとう」

礼を言うと轟は笑顔のまま部屋を出ていった。轟の背中を見送った出久は言われた通り部屋の真ん中辺りに正座で座る。

何もすることがなくて部屋の中を改めて見回す。畳の部屋には和室によく合う白木のローチェストと本棚、それから質の良さそうな座卓と座椅子が置かれている。もともと広い部屋だが物が少ないせいで尚さら広く見えるのだろう。

(轟くんらしいかも・・・)

すっきりと片ついた部屋に大してそんな印象を抱く。飾り気はないけど整然としているところが轟のイメージに合っているような気がする。

そうしている内に菓子と茶を盆に乗せた轟が戻ってきた。

「冷した緑茶にしてみたんだが熱い方が良かったか?」

「冷たいので大丈夫だよ!ありがとう」

綺麗な緑色の茶が注がれたグラスを受け取った出久は一口飲んで一息つく。盆を畳の上に置き、隣に腰を下ろした轟も同じようグラスに口を付ける。

一息ついたのはいいが轟から何かを話し出す気配はない。轟の方から誘ってくれたくらいだから歓迎はしてくれているのだろうが会話もないまま過ごすのは息が詰まる。

さて、どうしたものか・・・。こっちも盛り上がる話ができるほど対人スキルが有るわけでもない。困った末、出久は気になっていた事を聞いてみることにした。

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