貴方に嘘の花束を
□第六話
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思い出すと、何か熱い物が頬を滑り落ちる。
腕で強引に拭き取っても、それは後から後から流れてくる。
「馬鹿が!!こんな・・・・こんなことしたって」
自分がつけた傷(過去)は変わらないのに・・・
快活に笑う姿に嫉妬した。
綺麗な髪に嫉妬した。
その不可思議な魅力に嫉妬した。
嘘ばかりを吐き出す唇にさえも嫉妬した。
その手が、足が、髪が、首が、目が、耳が、唇が、心臓が、腸が、腎臓が、肝臓が、脳が、肺が、その爪の先までも。
彼女の全てに嫉妬して。
壊そうとしてしまった。
でも、銃の照準ははっきりしなくて。
銃弾は彼女の脇腹にあたった。
出血は激しかったし、逃げる素振りはなかったし、銃弾だって残っていたから、後一発当てさえすれば死ぬはずだった。
けれど不思議な感覚が、引き金を引くのをためらわせた。
何故?
彼女が死んだって自分は困らないのに。
何故?
こんなにも涙が出ているのか。
「あな・・・・た?」
名前を教えていなかったから、いつも彼女はそう自分の事を呼んでいた。
銃で撃たれた脇腹を抑え、壁に寄りかかりながらも彼女は笑っている。
「何故・・・■さないの?」
耐え切れずに部屋から出ようとするエンヴィーの背に、彼女はそう言っていた。
「ずっと、そう・・・・してきたんでしょう?」
一瞬だけ振り向いたエンヴィーに、精一杯の笑顔を見せて。
「必ず、また会いましょうね?」
その言葉に、エンヴィーは何も言い返さなかった。