貴方に嘘の花束を
□第五話
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あっさりと目が覚めた。
夢を見ていたのも、何の夢を見ていたのかも覚えている。
夢で見た事を何とも思っていないのに、体は勝手に反応してしまう。
「うっ・・・・・ぐぅっ・・・・」
体をくの字に曲げて、胃の中身をぶちまけた。
舌に残る苦味に顔をしかめながら、私は立ち上がる。
床の上に広がる吐しゃ物を避けて、眩暈がしているまま壁に手をついて歩く。
体は重く、思うように動いてはくれない。
こんな時は、無性に彼に会いたくなる。
会って、話をして、隣にいてくれるだけで、吐き気なんて無くなった。
過去を思い出すことが、蜜を舐めるように甘く、心地よく感じられた。
麻酔をかけた様に恐怖が遠のいた。
声を聞けるだけで、幸せで。
会っただけで、笑顔が綻んで。
その肌に触れただけで、体が熱くなる。
そんなあなたに、会いたくて会いたくてたまらない。
でも、今は仕事に行くことが先決。
休みはまだまだ先。頑張ってお金を貯めて、今度会ったときに彼と色々な所へ行くんだから。
まず行くとしたら、あそこ。
私が出来上がった、作り上げられた場所。
あそこに行って、彼に私を知ってもらいたい。私の誕生も、過去も、未来も、そして・・・・・・・・・・死に様さえも。
忘れられていくというのは、何よりも恐ろしいモノだから。