貴方に嘘の花束を

□第一話
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 そこはとてもくらいところでした。

 わたしは、つめたいゆかにころがっていました。

 おかあさんは、じっけんだとかでわたしをおとこのひとにわたしました。 

 かなしかったです。

 ゆかにずっとずっところがって、たまにごはんをもらいました。

 おといれのときはめかくしで、やっぱりすこしくらいところでようをたしました。

 たぶん、つらかったです。


 あるひ、じっけんがせいこうしたとかで、わたしはそとにでれました。

 そとは、とてもあかるかったです。

 そこで、たくさんのおとなのひとがわらっていました。

 わたしはじゅーすをもらってのみました。

 おとなのひとたちも、みんなのみました。

 すると、みんなくるしんで、のどをおさえてしにました。

 いきのこっていたひとは、ないふでさされてころされました。

 ないふでさしたひとも、じゅうでうたれてしにました。




「・・・・・したいがいっぱいころがっていて、みんなみんなしんでいました。みんな、しんでしまいました」

「何を読んでいるんですか?大佐」

 無心でとある書類を朗読しているのは、ロイ・マスタング大佐。
その彼が読んでいる書類を覗き込み、リザ・ホークアイ中尉は顔をしかめた。
 
 書類には長い文が書き連ねてある。
幼子が書いたような文の内容は、恐ろしく醜悪だ。

「三年前の薔薇の館事件の書類だよ」

「薔薇の館事件・・・・ですか?聞いたことがありませんが」

 茶色の瞳を二、三枚しか無い書類に向け、ホークアイはその一つを手に取った。
内容は酷く曖昧な物で、書類の半分程しか中身は埋まっていない。

「かなり軍にとってはマイナスな事件なのでね、一部の者しかその概要は知らないんだ」

 マスタングは黒髪を掻き上げて、手に持っていた書類をデスクに放り投げてしまった。
紙はふわりと舞い、上手く他の書類の上に乗る。

「三年前、ルー・ヒスワイリという名の国家錬金術師がいた。二つ名は薔薇。
薔薇の咲き誇る大きな館で一人暮らしをしていた」


 彼は人体の精神、肉体、魂の中で精神について詳しく調べていた。
しかし、あまりに実験に熱中するあまり、金と国家錬金術師という名の権力を使い、人体実験にまで手を染めてしまった。

 さまざまな子供を誘拐、監禁し、その精神を弱らせたり、逆に強くしたりして様々な実験を行い、成果を得ていた。

 そんな彼を崇拝、手助けする輩も出現し始めていた。
そんな中、軍にこのことが漏れ始め、己の身を案じたヒスワイリはある少女を育て始めた。
自分の身を守るためだけに・・・・・・

 そして、その少女の完成記念パーティの時。彼を崇拝する者達と、ヒスワイリ本人が薔薇の館に集合していた。

 その中に、密かにスパイを潜り込ませているという事も知らず・・・・・

 パーティの最中、ヒスワイリは飲み物に毒を含ませていた。
それで全員を皆殺しにし、少女を連れて逃げ出すために。
 だが、館はすっかり軍に囲まれていたため、ルー・ヒスワイリはその場で射殺。


   生きていたのは、実験体の少女一人だけだった・・・・・


「これは、その少女の書いた薔薇の館事件での出来事だ。彼女は可哀想なことに精神が病み、ろくな教育も受けていなかった。
実験が始められたのは彼女が五歳の時。そして、その事件が終了した時は九歳だ」

 確かに、軍にとっては隠したい内容だろう。国家錬金術師が、その権力を人体実験に使用し、大量殺人を行ったのだ。
 住人に知れれば、国家錬金術師を廃止する動きが出てくるだろうから。


「この書類を、何故今・・・?」

 三年前の事件を、何故今掘り出すのか。
ホークアイの質問に、少々困ったようにマスタングは答えた。

「この少女が、軍属なんだよ。精神的な問題で地位は低いが、身体と錬金術に対する能力に物凄く長けている。
彼女が・・・・今度ここの配属になったんだ」

 狂気の錬金術師、ルー・ヒスワイリが自身の身を守るためだけに育てた少女が、この東宝司令部にやって来る・・・・








「その、少女の名は?」

 確認するように質問したホークアイは、視界の端に書類に書いてあるサインを見つめながらその名を聞いていた。


 「ミルフィーユ・ラフェテリア」




 不吉な影が、東宝司令部を包み込んでいた。
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