短編小説
□一方通行
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テスト前でない図書室の利用者はまばらだ。それでも常連である本好きの生徒、友人待ちの暇潰しに図書室を利用する生徒など利用目的の幅は広かった。
彼氏のデータまとめの手伝い、という利用目的で図書室にいる私はデータを学校別にまとめるという単純作業を一通りこなした後、せわしなく手を動かし続ける目の前にいる彼氏を視界に入れた。
広げられたノートに描かれた数字の羅列を漆黒の瞳が追う。その端正な顔立ちが窓ガラスから入ってくる夕陽に照らされ輝く図が何とも絵になること。美形は目の保養。自身が女である故の妬みや嫉妬の感情を捨て去り、純粋に彼の姿を瞳に焼き付けた。
「(……あ、)」
目の下の隈が濃くなっている。それだけじゃない、よくよく観察して見れば肌にいつもの潤いはなく乾燥しているし、赤みこそ帯びていないものの額にはふきでものができている。いつもと、違う。
「何か、あったの。」
「……いきなり、どうしたんですか?」
「疲れてるでしょ、何か悩みとかあるの?」
「……ああ、そりゃ悩みなんて腐るほどありますよ。バカ澤のせいで僕の仕事量は二倍近く増えましたからね。」
「(……違う、)」
はじめはそうやって何でもないような日常的な悩み事を口にすることで、本当の悩みを隠そうとする。本当の悩みはそれじゃないでしょ。本当の気持ちはそこにはないでしょ。
本当は、疲れてるんでしょ。
なんて、思ってしまうのは私の考えすぎなんだろうか。