短編小説

□愛しの先輩を追いかけて
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昼休みの鐘と同時に私は黒板に描かれた数式を解くことを放棄し、既に柄の剥がれ落ちた金属製のシャーペンを筆箱へと投げ入れた。

私を含めクラスメイト何人かは同じ行動をとったらしい。最近左手の薬指に銀の指輪をつけはじめた幸せ絶頂の担任はこれ以上授業を続けるのは困難だと判断し、来週までに解いておいてと貴重な週末を易々と奪った。

来週当たらないことに私は賭け、ギンガムチェックのお弁当を広げる。冷凍食品をつめこんだだけの弁当。だけど、悲しいかな。母さんの手料理よりもずっと冷凍食品の方が美味しい。

最近太ってきたことに自覚のある私はゆっくりとゆっくりと食べながら、お弁当に手をつける。噛むだけダイエット。本当に効果があるかは謎だけどやらないよりはマシだろう。


「もーらいっ!」

「あ。」


筋肉のついた褐色の良い太い腕が私の目の前を通りすぎる。と同時に消える弁当のおかず。私の脳内で愛しの先輩が「そのお弁当消えるよ?」と囁いた。


「じゃなくて!何すんのよ、桃城!!」

「んあ?いやなんかゆっくり食べてっから食欲ないのかなって思ってさ。安心しろよ。食欲ないなら俺が弁当全部食ってやるから!」

「黙れ黙れ黙れ!人の話を聞け、このアホ!!私は今、ダイエットなうでわざとゆっくり食べてたの。別に食欲がないわけじゃないんだから!!」

「そんな無理してごまかすなって。」

「ごまかしてねーよ!」


見かねた隣の女子が卵焼きをひとつ弁当箱にうつした。ありがたい。


「あ。」

「ん、何?」


だしのきいた私がいつも口にする甘ったるい卵焼きとは違う美味しさを噛み締めていると、桃城はかたそうな髪を揺らして口にした。


「今日、不二先輩昼休み試合すんぞ。」

「マジで!?行く行く行く!」

「おー、待て。俺も試合あるからジャージ持ってかねぇと。」

「待てないから、先行ってる!!」

「あ、おい!!かーっ、先に行くなんていけねーな、いけねーよ。」


授業は放置し、お弁当は桃城にとられ、あげくのはてにはスカートで廊下を疾走する。そんなとある日の昼下がり。

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