水底に沈む

□第一章 鬼の唄は闇深く
1ページ/5ページ

鬼。

それは、太古からこの世界へ

確実に魔の手を伸ばし続ける存在。

「武さん・・・!待ってたわ。」

しかし、

「あぁ、遅れてすまない。」

それは決して自らの手を使わない。

ならばどうするか。

「本当に、私、待ってた・・・。」

「京子・・・。」

「あんた、薔薇。それも愛情の赤か。」

自らの手足となる者を作り出せばいい。

「何よ、貴方!」

「一体、誰なんだ。」

その役目を担ったのは、

「花妖師(かようし)の、陽宮涼誠だ。」

「花妖師・・・。」

花だった。

「今どき、花妖なんていないわ。」

「そうかな?」

少年は大剣を構え、駆ける。

眼鏡をかけた気弱で貧弱な男と、

髪を結い上げた勝ち気そうな女。

その瞬間、わずかに女が身じろぐ。

花妖師は迷わず、

「!」

男の、

胸でも、頭でもなく、

腹の中央を貫いた。

「た、たけ、武さん!!」

震える女の声が静かな夜に響き渡る。

「き、京子・・・。」

腹を染め上げた男はなおも女の名前を呼び続ける。

「お前は、お前だけはっ!」

力ない声ではない。

むしろ怒りに満ちた大きな声が男から発せられる。

「・・・京子さん、下がってな。」

花妖師はまっすぐに男を見る。

男の腹は確かに赤くなっていた。

だが、それは血ではなかった。

いくつもの赤い薔薇が腹部からボロボロとこぼれ落ちる。

しかし薔薇は地面に落ちるとあっという間に枯れ、褐色の花びらとなる。

「京子、一緒に行こう。この理不尽な世界から逃げよう。」

男は手を女に向かって差し伸べる。

「一体、貴方は誰なの・・・。こんなの・・・こんなの・・・。」

恐怖で足が動かない女は涙を流した。

「何を言ってるんだ。京子。お前のことを俺は誰よりも・・・!」

「愛してるってか?」

シュッと音がして男の右腕が切れる。

「愛と固執を取り違えた男。いや、いまじゃお前は立派な花妖。化け物なんだよ。」

切ってもこぼれ落ちるのは薔薇。

「京子さん。あなたがこの男と知り合ったのはいつですか?」

「・・・2ヶ月前です。」

「その前にこの男は4人、女性を殺してるんですよ。」

もう元には戻れない。そう花妖師は付け足した。

「京子、お前もあの子たちと一緒に・・・俺の、俺の、役に立てるんだ。」

愉快そうに笑う男を見て女は崩れ落ちた。

「枯れろ。」

そう言うと、もう一度男の腹に大剣を突き刺そうと構える。

すると、男はどこからか小刀を取り出し投げつける。

それをすっとかわして、花妖師は男の腹を貫いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ