make love.fake love.

□本命チョコは誰の手に
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―「名前の本命っていたりするんすかねぇ?」


世間一般でいうバレンタインデー当日…。Edenにはファンから大量のチョコが届いているのは分かっていたが、彼らのプロデューサーとして名前は彼らにチョコを配っていた。手作りではない。市販のものだ。全員に同じ物が渡されていた為、この中の誰かが本命だとは到底思えなかった。彼女が部屋にいない現在、彼らの話題は名前の本命、また彼女の恋人の有無についてだった。冒頭の台詞はそんな話題の最中にジュンがした発言だ。「私が見てる限りじゃ分からないけど。茨は同じクラスなんだから何か知ってるんじゃない?」と彼女と同じ秀越学園の凪砂が茨に話題を振った。Eveのふたりは興味津々といった面持ちで彼らの言葉を待っている。「教室で、女子同士でチョコ交換しているのは見ましたけど。男に渡している様子はありませんでしたね」と茨は告げる。そう…彼自身も名前の本命の行方を知らなかったのだ。不純な関係とはいえ、自分にぞっこんであろう彼女がそういった素振りを一切見せないことを茨は密かに気にしていた。もしや、自分が知らないだけで他の男に渡していたりする?なんて疑心暗鬼に駆られる程だった。


「何なに?何か私の話してました?」


「名前の本命は誰かって話をしてたね!恥ずかしがらなくても、ぼくはいつでも大歓迎だね!」


「あれ?日和くんが本命かもしれないの?」


部屋に戻ってきた彼女が自分の名前が出されていることで訝しがって問いかけた。名前の本命というワードを聞いて、人知れずどきりとした。この中に本命がいるなんてバレるわけにはいかない。「残念なことに、今年は本命作ってないんです」と表向きには好きな人がいないということにしておくしかなかった。しかし、本命チョコを作っていないというのは本当だった。茨には沢山の本命チョコが届いているのに、自分が贈る必要はあるのか?と自問自答して出した答えは本命チョコを作らないという選択肢だった。彼女に本命がいないと発覚し、ほっと胸を撫で下ろしている面々の中で、茨だけはその言葉を疑っていた。だが、期待するだけ無駄なんじゃないか。と考えてもいた。茨と目が合うと恥ずかしげにすぐに視線を逸らす彼女の真意は分からなかった。


「名前には本命なんていない。そう思っていいんですか」


月明かりの下、ふたりは並んで歩き出す。二月の夜はかなり冷えるな。と澄んだ星空を見上げた後、彼女に視線を移す途中、彼女の腕が茨の腕に絡まされ、距離がぐっと近くなった。いつも人には言えないようなことをしているのに、今のように恋人のような距離感と可愛らしい笑顔を見せられると心が揺さぶられた。自分は名前と交際しているのでは?なんて錯覚に陥らされる。やがて…口を開いた彼女からことの真相が明かされる。「茨ん家の冷蔵庫の中に、本命置いてきたんだけど気付いてないんだね」と。「確かに手作りでも、チョコでもないけどさ…」と名前はふふと笑った。彼女は茨の家に泊まる時、夕飯は勿論、近頃は作り置きおかずまで残していっていたのだ。見慣れない箱があったような気がするが、それも作ってくれたものが入っているのだと推測していた為、あまり気に留めていなかったのだ。


「美味しいって評判のお店の数量限定プリン。あんまり本命っぽくないかな?」


「名前は自分の好みをよくご存知ですね。名前の本命なんて身に余る幸せであります」


「ねぇ。今夜もお泊まりしていい?」


「今日で三日連続ですよ?」


「分かってるけど。バレンタインだから特別なの」



……To be continued
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