make love.fake love.

□君がデートをするらしい
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−名前と同じ部に所属している澄野は先輩であり、爽やか系のイケメンで茨とはタイプが正反対だった。そして本日、彼女の隣には澄野がいる。デートの誘いなんて断ればよかった。と、早々に後悔している名前は、茨の姿を思い浮かべていた。茨よりも身長が高いな。だとか、声が優しいな。だとか…普通の女の子なら澄野に惹かれていただろうし、彼からのアプローチを無下にすることは勿体ないのだろうな。と、確信していた。


−「名前ちゃんは、そういう可愛いスイーツが似合うね」


−「名前ちゃんとデートしてるなんて夢みたいだよ」


お洒落なカフェにて、どんなに美味しいものを口にしても、どんなに褒められてもちっとも心が揺らぐことはなかった。茨だったら、デラックスプリンを食べていただろうな。茨だったら、自分のことを可愛いだなんて褒めてくれないだろうな。と、目の前にいる彼には失礼だが、彼女はデートをあまり楽しめていなかった。


−「今頃、デートしてるんでしょうか」


名前の友人から「ほっといていいの?」と、本日彼女が他の男と出掛けていることを知らされていた茨はデスクから立ち上がりグーッと伸びをして写真立てに目を向けていた。名前にツーショットをねだられて仕方なく撮った一枚だった。彼女は自分といても幸せになれない。自分のような最低野郎ではなく、誠実な男と結ばれてしまえばいい。そう思っているのに、何故だか胸がキリキリと痛んだ。この部屋には彼女の私物が置かれていた。彼女の愛用している香水のボトルを手に取り、もしかしたらこの部屋にもう名前が訪れることはないかもしれない。なんて感傷に浸って俯いていた茨の耳に、玄関のチャイムが鳴らされた音が響いた。名前の声が聞こえて胸が苦しくなる。こんな関係は終わらせようという別れ話だろうか…いや、きっとそうだ。と、密かに覚悟していた。


「茨!会いたかったぁ…っ」


「何しに来たんでありますか」


扉を開けたと同時に抱きつかれ、思考が停止した。デートにしてはあまりにも帰りが早すぎる。と、ふいに出た言葉は何だかとても素っ気ないもので。どうして自分のところに来たんだ。他の男とデートしてたくせに。と、苛立ちを募らせている彼の唇は名前によって奪われた。「私ね、茨以外の男の子には全く心がときめかないみたい。今日もね、ずっと茨のこと考えてたの」と、「茨に会いたくなって半ば強引に帰ってきちゃった」と、いい笑顔で説明してくれる彼女の台詞を聞いて、相手の男が気の毒になった程だ。


「名前ってばかですね」


「突然の悪口!そりゃあ、頭のいい茨よりは馬鹿でしょうよ」


頭の良さとかそういう意味で言ったわけじゃない。最低野郎の自分のところに戻ってきてしまうから「ばかですね」なんて言ってしまったのだ。彼女を部屋にあげて、その抱擁を受け入れる。こんなに幸せそうな表情で、キスごときで嬉しがって…と呆れたくなるのに、どうしてか乱暴な口付けが抑えられない。部屋には艶かしいリップ音が響き、無意識に彼女を寝室に連れ込んでいた。ベッドに押し倒した体勢で、彼女の瞳に涙が滲んでいるのに気付いた。「なに泣いてんですか」と、茨がくすりと笑って呟いた。


「茨のこと…大好きだなぁって、実感しただけ」


「はぁ…。名前って本当に男の趣味悪いですよね」




……To be continued
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