make love.fake love.

□そもそもの始まり
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―「え…。やだ」と即答した名前の真意を知らなかった茨は愕然とした。こんな、純粋とは程遠い関係を終わらせるには、彼女を手放すか真剣交際しかないと思っていた故に、彼としては意を決して「自分と付き合いませんか?」と話を切り出したのだが…。ベッドの上、互いに何も纏っていない姿でシーツにくるまっている。身体だけの関係でも文句一つ言わない名前は自分に好意を持っているのだろう。と少なからず自信があった茨は疑問を投げかけた。「何故です?自分との交際は考えられませんか?」と。切なげな表情で唇を噛み締め、彼女はちらりと彼に視線を向けた。


「だって…彼氏彼女の関係になんてなったら、私絶対我儘言って茨を困らせちゃうと思う」


茨の気持ちは嬉しいが、そんな関係になったらデートがしたいだとか、手が繋ぎたいとかくだらない我儘を口にしてしまいそうだ。忙しい茨の重荷にはなりたくないからこそ、今の関係を受け入れていたのに…。始まりは数週間前のある日。暗くなった時間に車で家まで送ってくれる彼に「今夜はうちに泊まりませんか」と誘われ、それに名前が頷いてから、肉体関係を持つ仲となってしまったのだ。いつもは名前が目を覚ましてもベッドには一人きりで、抜け出した茨は仕事部屋に行ってしまっていたりするのに、今朝は違った。寝ぼけ眼で「おはよう」と告げると、彼に抱き寄せられて告白をされた。後腐れのない関係で、性病のリスクもない自分を性の捌け口にしているだけであり、そこに愛情なんてない筈だ。しかし彼女の白い胸元にはくっきりとキスマークが残されていて、理解に苦しんだ。付き合ってもいないのにどうしてこんなことをしたのだろうか、と。


―「はぁ…。好きだなぁ…」


初めての時もそうだった。茨は自称最低野郎だが、肝心なところは人間らしさがあるというか、優しいのだ。先程の行為の後だって「腰痛くないですか?」と気遣ってくれた。こんな不純な関係で幸せに浸っているなんて異常に決まっている。茨が部屋を後にして、広いベッドの上で寂しさを紛らわす為に彼のデフォルメぬいぐるみを隣に置いて呟いた。愛されていないと分かっているのに、自分の恋心は捨てきれなくて。茨ぬいぐるみにキスをしていた刹那、ご本人登場である。「何してんですか」と呆れたような眼差しはぬいぐるみを捉え、名前はなんて可愛いことをしているんだと茨は身悶えた。しかし、いつもの調子で言葉攻めされた彼女は恥ずかしくなって何も言えなかった。「名前がそんなに自分のことを好いていたとは知りませんでした。キスが欲しいんですね?」と顎クイをされる。


「いらない。私はこの子にキスがしたかっただけだもん」


「へぇ…。そんな名前に一つ忠告しておきましょう。自分と一緒にいると、そのうち不幸になりますよ」


「自分のもとを離れるなら今のうちであります」と、その忠告は名前のことを想ってのものだった。自分なんかよりも誠実な男と付き合ったほうが幸せになれるに違いないと…。悲しげな表情の茨の唇は彼女のほうから塞がれて。一瞬だけ触れる口付けをして、名前は否定を表すように首を振った。「不幸になんてならないよ。だって、茨といる時幸せだもん」と微笑む彼女の姿は茨にとっては眩しすぎた。こんな関係をズルズルと続けること自体、名前を苦しめている筈なのに。堪えきれずに腕の中に閉じ込めた。「名前は馬鹿ですね。分からず屋です」と頬を引っ張られた彼女が彼を睨む。


「馬鹿で結構です」


「名前の我儘くらい叶えます。意地張ってないで、付き合いましょうよ」



……To be continued
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