ぶっく 1

□動き出すモノ
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   〔凸凹コンビ〕


 あの謎の流星から約一年。

 ヴェイグはあの光の影響で、妙な力を使えるようになってしまい、集会所を凍らせてしまっていた。
 彼の力は氷に関するものらしく、正気に戻った後、バイラスに襲われたシータとクレアを救った時に放った技は、とっさに剣に氷を纏わせた物だった。

 最初は集会所を凍らせたヴェイグを怖がって遠ざけた村人たちも、ポプラやラキヤ、マルコにクレアとシータなど、彼と仲のいい人々がヴェイグを擁護したため、追い出そうと言う意見はほぼおさまり、多少ギクシャクとはしながらも以前のような温かみのある村が戻ってきていた。

 この一年であの謎の流星の悲劇を繰り返さないため、ヴェイグは自身に突然発現した力を訓練してある程度使いこなす事ができるようになった。
 最近では、村に入った泥棒を一度生きたまま凍らせて捕獲し、そのあとすぐに解凍すると言う離れ業もやってのけるようになった。
 まあ、村人の前でやれば再び恐れられることは明白なので、知っているのはクレアやシータだけなのだが。

 シータはシータで、彼女にも発現した力があったのだが、村人たちはそれに気づいてはおらず、ヴェイグほど風当たりも強くない。
 それもそのはず。彼女の力は物理的なものでは無く、概念的なものだった。

 シータの力とは、『活性化』である。
 たとえば怪我をしたとして、傷の周りの細胞を活性化させてすぐに直す事ができたりする。

 同じ要領で攻撃力、防御力、術の威力、スピード、などの増強など…応用次第でさまざまに使えるが、攻撃よりサポート向けだ。
 さらにヴェイグの力と違って目立つ短所もある。
 シータは活性化しかできないので、熱毒などの状態異常の時などに彼女の力を使えば状況が悪化する。病気もしかり。
 さらに一般的に『陣術』と呼ばれるものとは違い、一度に大勢を活性化させることはできない。あくまで一人ずつしかできないのだ。

 ここまで行くと短所の方が多そうだが、それを一年かけてシータは制御し、簡単な新導術を組み上げたりした。
 どうやらそちらの方面に才能があったようだ。

 そんな事だから、今まで以上にクレア達は三人でいることが多く、むしろ一人を見かけたらあとで絶対他の二人が来ると村人に認識されるくらい三人でいるのが普通になっていた。

 一方、そんな生活を送り、やっと自らの力に慣れてきた彼らは、村の外で少々噂話になっていた。
 いわく…『西の大陸の最北、小さな村に見惚れるほど美しい花が二輪咲いている。一つは慈愛と気品のある金の花、もう一つはどんな怪我でもたちどころに治る薬になるとか。しかしそれを手に入れるには氷の鬼が行く手を阻み、いまだにその花を摘み取ったものはいないと言う』…といったファンタジックなもの。
 時々そのうわさから二輪の花を求めてやってくる旅人が現れたが、もちろんスールズにそんな花がある訳ではないので、何を聞かれても知らないと言うだけだ。
 誰もそれが三人の人間を誰かがたとえて流した噂だとは気付かない為に。

 だがその可能性に気が付き、ダメもとでやってきた旅人達がいた。



 。*゜。.゜*・


「ひゃー、寒いぃ!」

 赤毛の少年が傍らで声を張り上げるのに、俺は苦笑してから語りかけた。

「マオ、此処には小さいながらも宿屋があるようだ。そこで休んでいるか?」

 俺の言葉に表情がくるくる変わるヒューマの少年、マオは憤慨したように片手を振り上げる。

「冗談きついんですけど! やっと噂の場所を突き止めて、ボクだけ留守番させる気なの、ユージーン!」
「なら、このまま行こう。先に噂の信憑性を確かめるために、この村を出た商人に聞いた『氷漬けの建物』とやらに行く」
「うえぇ〜…聞いただけで寒そう…今回は空振りじゃないといいなぁ」

 確かに、今度こそは、と思うものだ。
 今までの噂は突き詰めてみると、大げさな物だったり、存在しなかったり…『あの悲劇』ですでに亡くなった後だったりした事が多く、収穫は今までない。
 だからこそ、今までで一番嘘くさいが、今までで一番信憑性のある噂を追ってここまで来たのだ。

「多分、あの伝説っぽい噂話の『金の花』はともかく、『薬の花』と『氷の鬼』が可能性高いよネ。特に氷の鬼ってヤツ?」
「まあ、噂とは多少誇張して流れるものだ。過度な期待はしない方が良いぞ」
「もー、ユージーンったら! 夢壊さないでよネー!?」

 軽口をたたきながら、『集会所⇒』と書かれた看板を見つけ、踏み固められた道を歩く。
 俺は自前の毛皮があるのでそこまで寒くないが、マオのようなヒューマには厳しい環境のはずだ。
 それでもここがのどかで、人々が普通に暮らしていけているようなのは、やはり種族間で協力体制ができているから、なのだろうな。
 笑いながら道を駆けて行くガジュマとヒューマの子供たちを見て、良い村だ、と感想が出る。
 マオはそんな感想を持つ余裕もないようだが。

「うう…寒いヨ〜。早く確認しちゃおうよ、ユージーン」
「わかっている。そう急かすな」

 小走りで先へ進むマオを追いかけて、大股で歩いていく。
 やがて、目的の建物を見つけて思わず呆然と眺めてしまった。
 マオもしゃべり続けていた口を閉じ、まじまじと眺めている。

「…まさかホントにホントだとは思ってなかったヨ」
「ああ…」

 少々開けたような広場になった場所に、おそらく教会か何かの目的で作られたらしき大きな建物。
 それが、まるで氷で覆ったかの様になっている。
 俺は試しに道具袋から水筒を取り出し、中に入れていた熱い茶をコップに一杯注ぎ、建物を覆う氷に振りかけた。
 普通の氷なら、湯がかかった所だけ溶けてしまうだろう。だが、その氷は溶ける事は無い。そのまま岩に水をかけたかのように地面に流れ、しみ込んでいった。
 あきらかに普通の自然現象ではない。

「…これは、当たりかも知れんな…」
「やったぁ、これで一人目ゲットかもネ!」
「決めつけるのは早いぞ。まず、この能力者を探さねば」
「おっと、そうだった」

 これだけの規模を凍らせた能力者。しかもこの氷、不純物が見えない。強い力を持っていると判断できる…その割に、村への被害がここ以外にない。
 相当な精神力を持ち合わせているようだ。マオにはああ言ったが、確かに期待できる。
 マオの力をかりて、一人一人あたってみるか。

 やることを心のうちでまとめて、村へ向かおうと踵を返した、その時。

「ここで何をしている…!」

 あきらかに俺達を不審に思ったらしき若者が、三人。俺達を睨み付けていた。
 
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