Short
□雨の日こよし
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「おつかれしたー」
「ん」
「おつかれさまですした」
「おぅ、おつかれ名無し川」
”宮地さんの俺に対する扱いが雑だ。”それが今日の彼の言い分。
というか、ここ最近はほとんどそれだ。
別に好かれたい訳ではないけど、なんかアレ、らしい。
梅雨の雨にしとしとうたれつつ、彼はそう言った。
そんなに差があるのだろうか。私はまずそこから理解していない。
「名無し丸はさ、いねーの?そういう人」
「そういう人って?」
「なんとなくさ、距離を縮めたいなー、みたいな」
うーん。戸惑っていると、いなかったら別にいいよ、と加えられた。
いない訳ではなかった。仲良くなりたい人なら、たくさんいた。
今帰路をともにしている、この高尾くんもその一人だった。
バスケ部ではレギュラーとして活躍、クラスでも盛り上げ役だし、勉強も(得意教科であれば)教えてくれる。
比べて私には何もない。彼との繋がりと言ったら、同じバスケ部だということぐらいだ。しかも、同じコートには立てないーー即ち、マネージャーの一人にしかすぎないのだ。
…まぁこんなタイミングだし、言ってみるのも いいのかなぁ。
「私はね…高尾くん、かな」
えへへ、と照れ隠しに笑うと、高尾くんは何かボソッと呟いてそっぽを向いてしまった。
…と思うと徐(おもむろ)に傘を差して、私をグッと引き寄せる。
「ありがとな」
「い、いやそんな」
再び照れ笑いをすると、高尾くんも笑った。
そんな、仲良しこよし
一つ傘の中。
新しい気持ちに気づく頃には。
(きっともう雨は上がってる)