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□君のためだと言うならば
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生温い風がそよぐ教室。
中間考査も無事終わり、私たち高校3年生は、本格的に進路を決めなくてはならない。
進路調査、ただいまHR中。


(と、言われてもなぁ…)


秀徳高校は、そこそこの進学校である。
だから、もちろん先生たちも進学には力を入れている。
しかし。
どんなに頑張って教育をしても、やっぱり零れる者はいるわけだ。

そう、即ち私だ。

なんでか分からないけれど成績は伸びず、特に好きなことも得意なこともなく。誇れることと言えば人付き合いが得意なところくらいだ。

まぁでも世の中そんなに甘くないので、コミュニケーション能力があるだけじゃ大学には行けない。



よって私は、HRの2/3以上を寝て過ごしたのだった。






ーーー…「はい、じゃあ調査票前回してー」

結局、何も書けなかった。
どこにも行きたくなかった、行けると思えなかった。
まだ半年以上あるとは言え、希望のかけらも見えなかった。

…留年かなあ。



そこへ、颯爽と現れたのはいわゆるイケメンというやつで。

…いわゆる、
彼氏というやつ。

「お前、進路どこにしたの」
「書かなかった」

即答すると、バカか、と罵られる。
そういう清志はどこにしたんだよ、と言い返すと、聞いたこともない カタカナばっかりの大学名をペラペラと言われた。
格の違いを感じる。


「…え、てかちょっと待て」
「あ”?」







「留学、すんの?」






清志は何の躊躇いもなく、頷いた。

「長期の休みがあったら考えるけど、もうしばらくは日本戻んねぇつもり」


あ、そう。



そしてまた清志は、颯爽と去って行った。



あいつは頭がいい。
成績も良ければスポーツもできる、優秀で模範的な学生。
まぁ留学の一つや二つしたって、何の疑問もない。


でも、

そうなれば結果的に、私と清志は一緒にいることはできない。
必然、別れることになる。



(それなのに、)

あそこまで何も躊躇しないとは、ね。

別れる方が、彼にとってタメになるのかも、しれない。

なんて。


吹き付ける風が、午後の憂鬱をまた揺らした。











君のためだというならば。




(私だって何も、もう躊躇うことはない)

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