闇に溶ける色

□壱
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――とと様、かか様。


あなた方は元気にしていらっしゃいますでしょうか?


妾は・・・






―ロンドン市街


「こら!待て泥棒猫!だれかそいつを捕まえてくれ!」


ロンドンの街中。


突然少し小太りの男性が叫んだ。


人通りの多いロンドンの街を黒い小さな塊が器用に人の足元をすり抜け、人には追いつけないであろうスピードで"ソレ"は駆け抜けてゆく。


「畜生!また逃がした・・・」


小太りの男性は息を荒くし"ソレ"が去っていった方を見やると悔しそうに言葉を漏らした。


黒い塊は人目の少ないはしの下までくるとようやく動きを止めた。


動きが早く形を捉えられなかった"ソレ"は"黒い猫"。
口には身体と同じ位の大きさの魚が咥えられ、辺りを見回すと安心したかのように魚を地面に置いた。


『今日は新鮮なお魚ばかりでしたね。あそこに新鮮なマグロとかがあれば満点なんですけど・・・でもあんな大きな魚はさすがに無理でしょうか。』


先ほどまで黒猫がいた場所には黒猫の姿は見当たらず、真っ黒な髪をした少年の格好をした少女が座っていた。




少女は先ほどの猫が盗ってきた魚を掴むとそのままかぶりつく。
口の周りには魚の血が付き着ている洋服にも魚の血がポタポタと落ちている。


『ご馳走様です。』


ものの数分で魚を食べ終わると少女は残った骨を川へ投げ捨てた。


そのまま後ろへ倒れると橋の影から上半身だけが日向へ投げ出され日の光が当たり少女は目を閉じる。


いつもと変わらない。
毎日同じ。


魚を盗ってきて食べたら寝る。
そして夕方にめを覚まして日が落ちるのを見届けると人が少なくなった夜の街をふらふらと歩く。


少女はこの数年こうしてずっとこの街で生きてきた。


長いようで短くて、短いようで長い毎日。
まだ暖かい季節の中今年の冬はどこで越そうかなど色々考えながら少女は眠りについた。




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