………

□ホッピング・シャワー
1ページ/1ページ

しゅわしゅわと泡立つ炭酸飲料と一緒に溶けてしまえればいいのに。茹だるような暑さにアイチは瞑目した。舌を焦がすような弾ける炭酸の中には、本当は甘い甘い砂糖が沢山入っている。まるで彼のようだ、くすくす一人で笑っていると、ふと影がさした。暗くなる視界に降ってきたのは、低く不機嫌な声だった。

「何を笑っている」

見つかった。それもそうだ、彼がほぼ毎日横たわって寝ているベンチで時間を潰していたのだから。
アイチは飲みかけの炭酸飲料を差し出した。目を丸くする櫂がおかしくてまた笑うと、彼は黙って自分の隣に座った。

「これ、」
「何だ」
「櫂くんにそっくり」

櫂が受け取らなかったそれをぐいと飲み干す。炭酸はずっと前に抜けてしまっている、絡みつくような甘さに顔をしかめながら、アイチは続ける。

「ぱちぱちして痛いけど、ちゃんと甘いから」
「…はぁ」
「櫂くんも怖いけど優しいでしょ?」
「そんな事で俺に同意を求めるな」
「あはは、ごめん」

空になったペットボトルを鞄に入れる。すると櫂は、座ったばかりというのにさっさと立ち上がった。
アイチの腕を掴んで。

「…あれ、櫂くん…?」
「こんな所にいたら体調を崩す。アイスでも奢ってやるから、移動するぞ」
「…ほら、優しいじゃない」
「知るか」

照れ隠しのように腕を引く櫂に、アイチは苦笑した。甘さばかりではない炭酸飲料みたいな彼がたまならく大好きなのだ、舌に甘ったるさを残して、二人は公園を出たのだった。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ