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□ドロップはレモン味
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アイチって可愛いよね、全く恥じる様子も無くさらりと言ってのけたミサキは、カウンターでパックを手にするアイチににやりと笑いかけた。当のアイチは、「ふぇっ?!」と高い声をあげ、代金の小銭とパックをばさばさと落としてしまう。

「あー、大丈夫?」
「は、はいっ。もぅミサキさん、いきなり変な事言わないでくださいよー!」
「ごめんごめん、でも事実なんだから仕方ないだろ」

パックを拾い集めていたアイチは、青い大きな目でミサキを見上げ、「え?」と小首を傾げる。
そういう仕草もそうだが、玉のような白い肌に青く手入れの行き届いた髪、性格も良しという、男に好かれる要素の塊といっても過言ではないだろう。
小銭を手渡し、その場でパックを開け始めたアイチの髪を取る。大袈裟なまでに肩を震わせたアイチをよそに、ミサキは口角を上げた。

「本当に、もうちょっとオシャレしてもいいんじゃない?髪結んだり、グロスつけてみたりさ」
「ぅう、ミサキさんはお世辞が上手ですね…。僕がそんな事しても、似合いませんもん…」

彼女の頭の中にいるのは考えるまでもなく櫂トシキの事だろう。しゅんと目を伏せるアイチにミサキは笑いかけた。
スクールバックの中からポーチを取り出す。中にはブラシや簡単な化粧道具など、女子高生なら一般的であろう物が詰め込まれている。

「アイチ、ちょっとこっちおいで」

え、と口を半開きにするアイチの腕を取ってカウンターの内側へ引き込む。自分が座っていた椅子に座らせ、さらさらとした髪に指を滑らせる。慣れた手つきで後ろ髪を二つに分けると、ゆるく三つ編みを作った後にヘアゴムで毛先を縛る。次いでポーチからシトラスの香りと銘打ったコロンを取り出し、軽くアイチへふりかける。ふわりと柑橘類の酸っぱい香りが辺りに漂った。

「…よしっ、出来た。ほら、見てごらん」

ミサキはそう言って鏡を手渡す。恐る恐る鏡で自分を映したアイチは、呆気にとられたような表情を浮かべていた。

「きっちり三つ編みにするとかたっくるしいからね、ちょっと緩くした方がアイチのイメージ的にもいいかなと思って」

コロンをつけたのは、たまたまポーチに入っていたからだ。確か友達に貰って使わなかったやつだったか。

「わ、わぁ。すごいです、ミサキさん!」

やっぱり女の子というべきか、アイチは頬をピンクに染め嬉しそうに笑む。それを見て惚れない男子がどこにいるだろう。

「うんうん、我ながら上出来だよ」
「ほんとですか?えへへ、ありがとうございます。でも、か、櫂くんは、この髪型嫌いじゃないですかね…?」
「さぁ、アイツの気持ちは私には興味ないし、気になるなら本人に聞いてみれば?」

ちょん、とアイチの後ろを指さす。ミサキの指し示す方向に首を回したアイチは、口を半開きにし、顔を真っ赤にほてらせた。

「か、かか、か櫂くん!?」

何の事か分からないような様子でそこに立ち尽くしていたのは、たった今カードキャピタルへとやって来た櫂だった。翡翠の目がさまようようにしてアイチに向かう。呆然と目を見開いた彼はどうやらアイチに見とれているらしい。
ふわふわと漂うシトラスに背を向け、ミサキはカウンターから本を取り開いた。ここからは二人の時間だ、そうほくそ笑みながら彼女は呟いた。


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