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□とある午後のとある非日常
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キッチンに漂う甘い香りにつられてか、ふらふらと赤毛を揺らしながら俺の隣にやってきたレンは、出来立てのカップケーキを数個つまみ食いした。チョコチップがちりばめられたそれを三口で食べ切ると、首を傾げまた一かけら口に入れた。

「うまいか?結構自信作なんだけどさ」
「おいしいですけど、何だかチープな味ですね」
「文句があんなら食わなくていいぜ?」
「嫌です食べますとってもおいしいです!」

はむはむ、と慌てて頬張るレンにため息すら返せない。大体、俺の作ったお菓子が食べたいとせがんできたのはこいつなのに、チープとは何なんだ。
櫂だったら、と浮かんだのは親友の顔だった。一人暮らしも長い櫂なら、チープなお菓子じゃなくてちゃんとした物が出来るだろうに。

「三和くん?どうかしましたか?」
「あぁいや。これ、皿にのっけちゃってもいいか?」
「はいっ。その前にもう一ついただきます」

今度はアーモンドがのったケーキを一つ摘む。チープだと言ったわりにはよく食べる、というかこいつはいつもどんな物を食べているんだろうか。
大皿にカップケーキを移し、ダイニングにあるテーブルへ持っていく。チョコで汚れた指を舐めながらレンは俺についてきた。
椅子の前でぼーっと突っ立ってるレンに怪訝そうな視線を送ると、「手が汚れちゃってます」と眉を下げた。仕方なしに椅子をひいてやる。

「ありがとうございます。三和くん紳士なんですね」
「よく言うぜ、露骨に座らせろって言ってたくせによ」
「さぁ、何の事でしょう?」

毒気のない笑顔で言われ、不覚にもどきりとしてしまう。気持ちを紛らわすためケーキを一つ取ってみる。成る程、自分で言うのも何だがおいしい。

「次はもっと本格的に作ってみるかなぁ・・・」
「えぇー、これチープですけどすっごくおいしいですよ?このままでいいですよ」
「・・・っそ」

ココア風味のケーキをずいと差し出された。瞬きしかできない俺に、レンはにこにこと笑っている。迷いながらもそれに噛り付く。くすくすという笑い声に、頬が紅潮していくのが分かる。

「ふふ、可愛いですよ三和くん」
「うっせぇ、それよこせ」
「はい、あーん」
「自分で食うからいい!ったくこんなまどろっこしい食わせ方しなくてもいいだろ」
「嫌でした?」
「・・・別に」

嫌と言うと面倒な事になるので、それだけを呟いてレンの手からケーキを引ったくる。
律儀に手を合わせて「ごちそうさまでした」と頭を下げる。ぽんぽんと頭を叩いてやると、そのままソファーに移動しねっころがってしまった。まったく何をしに来たんだこいつは。








つづく。

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