グレラガ(短)

□護れるだけの強さを
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カミナが亡くなってから早数日。
プトレマイオス、ダイグレン、マクロス・クォーターは喪を服したように静かだった。
シモンが暴走した時に保護した螺旋王の一人娘であるニアが誰よりもシモンを気にかけ、話かけていた。
あのヨーコでもカミナを喪った想いが強すぎて見てはいられなかった。
大グレン二代目リーダーとしてキタンが纏めているがそう長くは続かないだろうとヨシュアは思う。
亡きカミナが認めた人物はただ一人。
シモンを拒絶したラガン、操縦者を喪ったグレン。
「さて磨きますか」
「グル」
ヨシュアとゾロアークは雑巾を手にラガンとグレンを磨き始めた。
とぼとぼと歩くシモン。
その傍らにはブータが心配そうに鳴いていた。
いつものようにグレンとラガンを保管してあるドッグに足を進める。
ドッグには磨かれたラガン、磨き途中のグレン、グレンを磨いているヨシュアとゾロアークの姿。
それはいつもの光景だった。
カミナが操縦するままに真っ先に突っ込むグレンラガン。
傷だらけ埃まみれの機体を磨くのはヨシュアとゾロアークの仕事だった。
ピカピカになるグレンとラガンを嬉しそうにカミナと二人、見つめていた。
そのカミナはもう、いない。
ギリと音がする程、奥歯を噛み締める。
いつもの光景が、ヨシュアとゾロアークが、シモンには責めているように見えて、アニキじゃなく何故俺が生き残ったんだと自分を責めて。
シモンを見つけたヨシュアはグレンから降りて、彼に駆け寄る。
白くなるまで握り締めている拳に手を添える。
「シモン、どうしたの?」
呟くシモンに首を傾げる。
彼の言葉を聞き取ろうと顔を近づけるが、その前にシモンが彼女の肩を押した。
バランスを崩し、尻餅をつく。
戸惑いながら顔を上げるとシモンはヨシュアを睨み付けていた。
「そんな事したってアニキはもういない……俺がアニキを殺したんだっ……!!ラガンはもう動かないっ!!ヨシュアもそう思ってるんだろっ!?俺がアニキを殺したって!?俺が役に立たないって!!」
「そんな事……」
「じゃあ、グレンをアニキ以外のヤツを乗せるのかよっ!?その為にいつも通りにしてるんだろ!?アニキが死んでも悲しくないのかよっ!?」
一方的に捲し立てるシモンの言葉に俯いていく。
シモンはヨシュアの様子に気づくと小さな声でごめん……と呟いた。
ヨシュアはそんな気持ちで磨いた訳じゃない。
いつものようにして、自分を励ます為に磨いてくれている。
カミナを喪って悲しみにくれるシモンをみんなどんな風に接したらいいか解らないなか、ヨシュアだけがいつものように接してくれた。
ジーハ村での自分とカミナの話を聞き、手を握って寄り添ってくれた。
ヨシュアだけそうしてくれた。
カミナもこんな風に人を責めたりしない。
俺がアニキの代わりにならなきゃ、とそれだけがシモンを占める。
ヨシュアが立ち上がり、俯いているシモンを見つめる。
ぺちんと両側の頬を叩かれる。
シモンがヨシュアを見る為に視線を上げると眉を寄せて心配そうに、だけど彼に対して怒っているように見えた。
「君はシモンだ。
カミナじゃない。
決してカミナにはなれない」
「けど……」
「誰もカミナの代わりを求めていない。
誰もカミナの代わりなんて出来ない。
カミナも望んでいない。
君は君だ、穴掘りシモンだ。
カミナの代わりがいないようにシモンの代わりもいない。
己を持つ意識<こころ>は簡単には変えられない、消えはしない。
カミナになろうとしなくたっていい。
君は君らしくカミナを目指せばいい。
僕はシモンが居なくなったら、やだな。
臆病で小心者で……でも、いざとなったらカミナすら引っ張るだけの強固な意志を持つ君が好きだ。
僕を助けてくれたのは、護ってくれたのはシモン、君だよ」
にっこりとそれでも柔らかく微笑む。
彼女を助けて、護っていたのではない。
反対に自分が助けられ、護られていた。
改めて気付かされた事実にシモンは嗚咽を抑える為に唇を噛み締める。
泣き顔を見られない為に彼女の体を抱き締めた。
ヨシュアは溜め息を吐くと、ぽんぽんと彼の背中をゆっくり叩く。
小さく口を開くといつも寂しい時に辛い時に唄っていた唄を口ずさむ。
「ラー……ラララ……ララー……ラララ……」
誰に教えてもらったか、解らない。
物心ついた時にはすでに口ずさんでいた。
マリンとデンゼルを寝かしつける為に唄った子守唄。
今はシモンの為に唄う。
シモンは瞳を閉じて聞き入り、ブータとゾロアークはグレンによしかかる。
調整の為、リーロンとKOS-MOSも壁に隠れながら、子守唄を聞いていた。
ふいに子守唄が途切れる。
シモンとブータ、ゾロアークは焦ったように声を上げ、その声にKOS-MOSとリーロンは姿を現せる。
ヨシュアが荒い息を吐きながら、シモンに寄りかかり、右腕から黒い膿が包帯から溢れだしていた。
シモンの手も黒い膿に染まる。
ヨシュア!!ヨシュア!!と必死に声をかける。
リーロンは駆け寄り、ヨシュアの右腕を取る。
「何なの……これ……!?」
ボタボタ、流れ落ちる黒い膿。
リーロンが今まで生きてきたなか、見た事も聞いた事も無い症例。
戸惑う二人を尻目にゾロアークがヨシュアの体を抱える。
「まずは医務室に行きましょう……二人にも聞いて欲しいことがあります」
KOS-MOSがそう声をかけるとゾロアークと彼女は迷うことなく医務室への道程を走り出す。
ブータはシモンの肩に乗り、二人も追いかけた。
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