-Story-

□Act.04 -歪曲-
1ページ/3ページ

目が覚めたら、真っ白な天井と真っ白なシーツが目に入って。
「おはよう」って、聞き慣れた声がしたから、その方向に目を向けて。
その人が笑って手を差し伸べてくれたから、自分の手を差し出して。

 またいつもの、朝が来たんだって、思った。



    ― 歪曲 ―

 

――まだ、少しだけ頭痛がする。

痛いと言う程ではないけれど。頭の奥の、深い場所で、何か渦巻いている感じがした。
これも、バグによる後遺症なのかと、小さくため息を吐く。
低血圧でもないのに、昨日と同じで、だるい。
ベッドの上で上半身だけを起こして、少年は軽く頭を抑えた。
数回瞬きし、俯いた床の先に、すらりとした足が見え、彼が其処に居る事を気配でも感じ取る。
少年の傍に居た長身の男は、ゆっくりとした動作でベッドに腰を掛け、

「…気分はどうだ?」

声をかけ、少年の髪を優しく撫でた。
サラサラとしていて、空にも似ている綺麗な青。
触り心地が良いからと、日に何度もされるから、少年もその行為に、何となく慣れてしまっている。
頬を滑る指が少しだけくすぐったいようで、少年は笑って小さく首を竦めた。

「…ちょっと頭が重い気がしますけど、大丈夫です。」

頭を上げ、目の前の恋人にふわりと笑ってみせたら、その顔がゆっくりと、少年に近付いてきて。
唇が触れる。
軽い、軽い、一瞬だけのキス。
それが、いつもの『おはよう』の意味でもあったから、少年にとって大した事ではなかった。
だが、今まで意識不明の重体で、精神がゲームの世界に囚われていた事実は存在し、男がずっと少年に触れていなかったのもまた事実だった為。
長身の男。ルシファーにとっては、少年を感じる事の出来る、一つの方法でもあった。
壊れ物を扱うかのように、その大きな腕がゆっくりと少年の背中に回される。
髪に顔を埋め、小さく呼吸を一つ。
その確かな存在と、自分の名を呼ぶ想い人に満足しつつも、男の腕の力が緩められる事はない。
早く仕度を済ませないと出勤時間に響いてしまうが、午前中は何の予定も入っていないので、今日はまあいいかと、ふと考える。
そして、思いつく事はただ一つ。

「……今日は、休むか?」

「え…?」

耳元で囁いたオーナーに疑問を抱き、少年は小さく首を傾げた。

「何故ですか?」

きょとんとして、訊ね返す。
だって、昨日行ったばかりなのに、と。
そう呟いて自分を見つめてくる少年に、オーナーは、フッと笑み、そうしてその唇を少しの間塞ぐ。

「…ん…っ。」

自然と、目蓋が閉じる。
今度は、さっきよりも長く、少しだけ深い。
頭の芯から眩むような、甘い一時。夢見心地の数秒。
静かに唇を離し、ゆっくりと恋人の身体を、背後のベッドへと、沈めさせる。

「え、ちょ……、待っ、て…っ。」

些細な抵抗も束の間。
男の手は止まる事無く。唇を、解放する事など無く。
身体を、心を、少年の想い全てを、自分のモノとして、暴いていく。

「心配なんだ。昨日の感想が、あれじゃあな…。」

オーナーとしてはそんな職場に行かせたくないとばかりに、唇が恋人の首筋を噛む。
快楽の波に押されそうになる感情を抑えつつ、少年は昨夜の会話を必死になって思い浮かべた。
昨日の感想。とは、開発部との事を言っているのか。

 ――ちょっと、視線が痛かった…かな?

少年、フェイトにとっては気がかりであったちょっとした事だったのだが、これもまた。
恋人であり、オーナーである男にとっては、気に障ったらしい。
態度が、想いが、肌を滑るその唇が、少年を繋ぎとめようと露になっていた。

「あぁ…っ!」

同時に、少年の理性も、崩壊されていく。
甘い熱が、身体中に広がる。


――翻弄されて、意識が飛び。次に、目を開けた時には。
視界の端で、時計が短針を丁度真下に動かしていて。


 やられた、とばかりに。少年は盛大なため息を吐いたのだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ