-Story-

□Act.03 -再会-
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 何よりも大切だった、誰よりも愛していた唯一無二の存在。

 それが、こんなにも簡単に居なくなってしまうなんて。

  こんなにも早い、別れが来るなんて。思いもしなかった。



    ― 再会 ―



「――飲み過ぎ、だろう。これは。」

薄暗い、部屋の中。
カーテンの隙間から射し込む一筋の光が、部屋の主である男の輪郭と、室内の惨状を映し出す。
その一室の、ベッドの上で。男は横になっていた。
その下には、飲み切ったであろう様々な銘酒のボトルが、無造作に転がっていて。
その数は、軽く一桁を越していることだろう。
部屋に充満するアルコールの匂いが、ソレを物語る。

「フン、…そんな事を言う為に、わざわざ王都から来やがったのか?」

 阿呆が。

吐き捨て、手にしていた何本目かのワインボトルを、口に持っていく。
ダークレッドの液体がその体内に入れられ、ゴクリと。喉が鳴る。
そして男は、酒が少量底に残っていたそのボトルを、未だ部屋の入り口に佇んでいた女に、無遠慮に投げつけた。
運良くソレは、一滴も零れずに、割れる事も無く。
女、隣国シーハーツの隠密-ネル・ゼルファー-の片手へと、受け止められた。
静かな動作で近くのテーブルにそのボトルを置き、男の顔色を窺って、女性は深々とため息を吐く。

「いくらなんでも、堕落しすぎだ。」

少しは、『勇者』としての自覚は無いのか。
ツカツカと窓の方へと歩き、女はバッと。カーテンを左右に開く。
一瞬、眩しい程の熱光が男の視界に入るが、以降は通常の景色と、いつもの眉目秀麗な女性の顔に、戻った。
窓の外をちらりと一瞥するも、少し雲の多い灰色の空が、其処にあるだけ。
雨か、雪でも降るのだろうか。
あの時見た綺麗な夜空でも、男の望む青い髪の色でも無かっただけ唯一の救いか。

「――それはそうと…。」

そして、世界を救った、『勇者』の一人としての忠告か。
女性は単刀直入に、原因を追求しようと試みる。

「一体何があったんだい?世界中でウワサになってるよ。」

少し棘のある言葉を向けられ、男は面倒臭そうに、女性に背中を見せて、軽くあしらった。

「…クソ虫など勝手に吠えさせてろ、阿呆。」

「アタシも何があったか気になるから、わざわざ来てやったんだ。」

でないと、収拾がつかないからね。
女は小さく首を傾げて、再度問う。

 ――その、ウワサというのが。

「勇者・アルベルは一月前から想い人を探して、世界を渡り歩いている。
 その尋ね人は『運命』と言う名の美姫らしいが、世界中の何処を探しても、誰もその存在を知らない。
 同じ『勇者』の一人だと言い張るが、そんな『勇者』など、国中の誰もが知らない。」

 ――と、いうものである。

実に童話のような話だが、事は現実に起こっているから、誰もが興味を抱く。
…そう。屋敷の者全てに彼の恋人『フェイト・ラインゴッド』という少年を訊ねて、その存在も、居場所すら分からなかったアノ日から。
今日という一月後まで。
彼、アルベル・ノックスは世界中を隈無く探し回った。
先月の和平条約会議も、締結後の記念式典にすら、出席せずに。
ただひたすら、自分の想い人を探していたのだ。
それはまるで、空の上の雫一滴を掴もうとするかのように。
果てしなく遠い道のりで、手応えの無かった旅路ではあったけれど。

「…それを、お前に話す義理は無い。」

「アタシも知らない人物なのかい?その、お前の言う『フェイト』って子は。」

偶然再会した『勇者』の子供も、同じ事を言っていた。
そう聞いてくる時点で彼女も知らないと言う事は、答えは既に決まっていた。
この星の誰もが。
宇宙に散らばる、同じ『勇者』の誰一人として。
彼を除いて、『フェイト・ラインゴッド』を知る者は、居なかったのだ。
だからこそ。
何度も、同じ言葉で否定されて、世界を一周してきた男に残された手立ては、何も無かった。
星の海へと出る手段も、何もかも。
ただただ、深い眠りに落ちる事しか、出来なかった。
こうやって、浴びる程酒を飲み。
何も考えずに眠ってしまえば。何度でも、想い人に会える。

『深い、深い、夢の中』

これが、唯一男の出来た手段であり、探し尽くした結果だった。
けれど、会えても、笑いかけても、直ぐに目が覚めてしまう。
現実に、引き戻されてしまう。
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