-Story-

□Act.01 -prologue-
1ページ/4ページ


先ず、最初に闇が存在した。
其処に、光が一つ生まれ、そうして『太陽』が生まれた。
いや、本当は『太陽』が先に生まれ、その光が闇を作り出していたのかも知れない。
だが、確かに二つのモノが存在していた。


 其処から、全てが始まった。



    ―prologue─



世界を知り、空を知り、その先にまた世界がある事を知った人類は、やがて星の海へと旅立った。
飽く無き探究心の裏側にある、愚かしい欲をその身体に詰め込んで。
光の届く範囲内に在る七つの星の、その先。欲のままに汚れた手を伸ばして、それらを掴み取る。
地球と言う名の星に生まれた人々。勝手に決まり事を作って、全てを縛り付けた。
最後には、『神』の住まう場所にまで、手を伸ばして。
だから、何度も災厄が押し寄せ、何度も人は平和の場を失っていった。
だが、其処で立ち止まる者達ではない。
直ぐに、前へと進み始める。何度も、何度も。


それを眺め、滑稽だと笑う『神』は、今。再度その手をヒトへと向ける。

 新たなる画策と、己の欲を、内に秘めたまま。



「………。」

終わりの無い闇と、無数もの星々が輝く、擬似空間である大広間に男が一人。
ゆったりとした椅子に腰を落ち着け、視界に広がるグラフィック画面のデータに目を向ける。

「く………くく。」

思わず、笑みを洩らす。
たった数日前の出来事を鮮明に思い返し、その記憶の中に映る少年と、画面上に浮かぶ少年とを照らし合わせ、男は暫くその余韻を楽しんだ。

「……『フェイト・ラインゴッド』…。」

透き通る水色の髪と、真っ直ぐな瞳を持った、美麗にして純潔な存在。
そして自分が理想として手懸けた、至高の麗人。
欲しいとさえ思ったこの少年が、よもやバグだったとは考えもしなかった。
己が創り上げたデータ上の世界に、決して狂いなどありはしないと、あの時は断固否定したが。

 今、考えてみれば。

この歪んだ想いこそが、あの少年を『バグ』へと変えてしまったのかも知れない。
でなければ、ただのデータであった少年が。
こちらの世界に足を踏み入れる事、自分と言葉を交わす事。
それすら、なかったのだ。

「想いがある、か…。」

あの日、この場所で。
『少年の幼なじみ』と設定していた少女が言い放った言葉。
少年も頷き、それが合図でもあったかのように、少年らは自分に戦いを挑んできた。

…結果は、創造主であった自分の敗退。

データ上の世界は少年達『バグ』の手に渡り、また元の平和な世界になった。
それが、目の前で繰り広げられた物語の結末。

 ──だが、しかし。

   これで終わりだとは、一体誰が決め付けた?

『元通り』
即ち、全消去されたデータがバックアップとして元に戻り、ウイルスデータを放つ以前のデータに戻っただけの事。

 ──つまり。

「全データは…、今も私の手の内にあると言う事だ…!」

目の前で幾重にも表示されていくデータに尚も笑みが零れ、その中でも一際大きく表示されている少年の画像に、男はゆっくりと左手を差し伸べる。

「…信じてみようか、私も。……『想いの力』とやらを。」

そして、少年を捕らえるかのように、ぐっと拳に力を込める。
手応えなどありはしないが、男の胸中には既に次なる戦略と欲望が渦巻いていた。
不意に出現したキーボードを前に、男は慣れた手つきで何かを打ち込んでいく。
次々とデータが表示され、書き替えられ、あるモノは消去されての繰り返しの中。
男の手は、ある一つのデータを取り込んで、ふと止まった。
それは、少年の想い人である、黒髪の騎士。
太々しく笑う、少年と絆の深い人物。

 ──こんな、

「…下賤なデータごときにくれてやるのは惜しい…。」

ヒクリと、顔を歪める。
自分よりも先に、少年に触れた男。
『アルベル・ノックス』。
データ上のプログラムを睨み、男は忌々しげに毒づいたが。
何かを思い付き、再び操作に戻る。
その表情に映るは野望。
そして、男は画策する。
全ては、己の創り上げた世界以上に欲する存在を、手に入れる為に。

「……さて、第二の幕開けといこうか。」

男の笑いが響き渡り、物事の始まりとなる『実行』のキーは、男の手によって静かに押されたのだった。

『プログラム、変更します。更新に関する異常は該当しませんでした』

乾いた電子音が、構築する全ての構造を飲み込んでいくかのように響く。



   戦いの火蓋は、今こうして再び切られた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ