-Albel-

□つつみ込むように…
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 いつも、何度も思う事がある。




   つつみ込むように…




「…?」

アルベルの住まう屋敷。
呼び出され、彼の部屋に向かう途中の廊下で。
ふと、女性数人の黄色い声を耳にして、僕は立ち止まった。
声は、僕の居る場所から直ぐ角にある小部屋の辺りらしく。
その会話の内容が…どうやら、僕のコイビトの事みたいで。
些細な好奇心から、僕は忍び足でそちらに近付いてみた。
そうして、彼女達の視界に入らぬよう、こっそりと聞き耳を立てる。

「本当…。アルベル様って素敵よねっ!」

「あの方のお世話をする時がどんなに至福な事か…。」

(……。)

きゃあきゃあと騒ぐ声に、飛び交う『アルベル』の名前。
そう、僕のコイビト…というのが。
今、僕を呼び出し…彼女達の話題にもなっているこの屋敷、ノックス家の主人・アルベルなのだ。
ちらりとのぞき見すれば、彼女達の姿格好からこの屋敷のメイドである事が分かる。
それなら、よくある主人の悪口か何かと思ったけど。
その声のトーンからして、そういったものではないらしい。寧ろその逆。
皆頬を赤らめて、アルベルのココがいいとか、どんな所が好きなのか…とか。
とにかく、いろいろ、語り合ってるみたいだ。

(なんだ…結構モテるんだ。)

彼が、冷酷で残虐。非情な上に自己中心的…なんて。
シーハーツでもアーリグリフでも聞いていた話だけど、いや、それはそれで事実だけど。
逆にその姿が、そのクールさが、良いらしい。何だか拍子抜けだ。
いや、コイビトが慕われているのなら別に構わないけど。…それはそれで良い事だし。
でも、誰かに好意を抱かれるという事が…ちょっと、変な感じだ。
こう、胸の奥が…ムカムカしてくる。
気持ち悪いんじゃない。少し、苛立ってる感じ。
きっと…嫉妬、だ。この、気持ちは。
ドロドロしていて、醜いモノ。

(…………ヤだな。)

ふと、そう思う。
この気持ちが、じゃなくて。
絶え間なく聞こえてくる彼の話が、嫌。
内容が嫌なんじゃない。
噂話だったり、昔の事だったりと僕の知らない事ばかりで、聞いてみたい気もするけど。
それが何となく嫌な感じで、何となく聞きたくなくて。
軽く耳を押さえて、その場に座り込んだ。
それでも、否応無しに聞こえてくるから、頭を膝になすり付けるようにして、蹲ってみせる。
そんな事せずに、早くココを立ち去れば済むだけの事なのに…足に力が入らなくて。
ぎゅっと目を瞑って、胸中で、何度も彼女達に呟いた。

(……ずるい…。)

僕の知らないアルベルを知っているなんて。
彼と、同じ時間を。同じ世界を共にして。

 ずるい

 ずるい

 ずるい

そう、何度も、何度も、頭の中で連呼する。
いつも、何度も嫉妬する。
名前も知らない使用人達に。
会った事もない、沢山の人達に。
軽い目眩と、息苦しい程胸に痛みを覚える程に。
不意に、視界が揺れる。
鼻がつん、と痛みだす。

(なんで……違う世界だったのかな…。)

問う事は、いつも同じ。
呪う程に、痛くて哀しい事実。
地球に生まれて、生きてきて、一度もその事実を憎んだ事はなかった。
コイビトに出会うまでは、少なくともそう思っていた。
なのに、いざ彼の事を、この世界で、否応無しに耳にすると。
途端、どうしようもない憤りが全身を駆け巡って、切なくて、苦しかった。
どうして、同じ世界で存在して、出会わなかったのだろう、と。
どうして、まだ出会って数ヵ月しか会ってない僕を、選んでくれたのか…と。
色々不安で、しょうがないんだ。
その不安は、僕の弱さからもくるのだろうけど。
半分は、彼にも…ある。

何故なら、彼は、

「…でも、アルベル様。戦争にしか興味のない御方だから、私達がどれだけ色目使ったって通用しなさそうだわ。」

「そうそう。誰も信用してないって感じで、私達メイドにも、漆黒の部下にも特別な目を向けてはくれないものねぇ…。」

「あら、でもその冷徹さが素敵なんじゃないの!」

(……。)

彼女達の、言う通りなのだ。
いくら格好良くても、どんなに惹かれても。
戦う事でしか生きがいを見つけられない彼だから、いくら言葉で…。
身体で、コイビトと言ったって。
やっぱり、いつも…何度でも不安になるんだ。

(一回…「好きだ」って言ってくれた。…でも、それだけ。)

出会った時のように、無表情で、口数少なくて。
夜、部屋に呼ばれて…………事にもつれこんでも、彼は。
いつだって、いつもと変わりなかったんだ。
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