-Story-

□Act.04 -歪曲-
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――その、半日前の事。

開発部主任、ブレア・ランドベルドは、ようやく出勤してきたオーナーへと、二つのファイルを机に叩きつけていた。
第一声は、罵声となって、オーナーである兄に響く。

「何なんですか、コレは!」

社長室。広い、半楕円状の黒いオーナーのデスクに勢い良く叩きつけられたモノ。
一つは、オンラインゲーム『エターナル・スフィア』のデータの一部。
もう一つは、弊社の社員データであった。タイトルは『モニター生名簿一覧』となっている。

「…見て分からないか?」

「分かりますよ。」

白を切る男に対し、ブレアの怒りは一層増していく。
問題なのは、その中身。
あの惨劇以降、全データに何の異常も見られなかったのだが。
昨日モニター生に接触して、初めて自分の甘さを、彼女は知ったのだ。

「…いつ、データをすり替えたんですか?」

それも、こんな馬鹿馬鹿しい事を。
質問と同じタイミングでファイルが開かれ、変更・更新されていたデータを、目の前で優雅に座るオーナーに見せ付けた。
ゲーム内に記憶されていく『伝説』の覧の、真新しい宇宙暦772年に起きた出来事。
そして、モニター生には存在しなかった、『フェイト・ラインゴッド』と言う名の少年のデータ。
その二つ全てから、一人のゲームキャラクターが移動している事は、明白だった。

「――知らんな。」

突きつけた嘘偽りの事実全てを、男はその一言で済ませる。
何の事か理解出来ないとばかりに。
各部からの報告書と大手企業からの融資・契約の通知に目を通していく。
その、自分に目を合わせようとしないその態度に、女は苛立ちを増した。
直ぐ、自分の都合が悪くなると、目も合わせずに他人をあしらう事。
企み事がある時に決まって見せる、小さく笑って口元に手を当てる仕草。
昔から、こういう所だけは全く変わっていない事を、ブレアは理解していた。
全ては、自分の気に入った存在を手中に収めたいが為に。
そう、人でも、モノでも何でもだ。
すぐ傍で見てきて、すぐ近くで想っていたからこそ、彼女には全て分かっていたハズだった。
だが、しかし。
それらは全て『社長』という大きな存在でもみ消されていたに過ぎない。
見て見ぬフリをするか、発言しても全て無力で。
今回の事も全て、その存在の前に圧倒されてしまうのかと、ブレアは一瞬たじろいだが。
昨日見た少年の無邪気な表情を。ゲーム内で自分を見失っていく騎士を、目の当たりにして。
このままでは、全てが崩壊すると、直感した。
だからこそ、止めなければならない。
自分がどうなろうとも。
壊れていく世界も、壊れていく兄も、全部。
解決しなければ、誰も救われない。
意を決して、再度兄・ルシファーに口を開く。

「…質問を変えます、兄さん。――フェイト君を手に入れて、何がしたいの?」

「………。」

恋人の名を口にされて、ピクリと、男の指先が反応した。
スッ…と、鋭利なその瞳が、彼女を静かに捕らえていく。
距離があるというのに、男が放つ威圧感がじりじりと伝わって、痛いとさえ感じた。
その眼光に一度は怯むが、彼女の意思は強く、その瞳が二度も揺らぐ事は無い。
そして、突き付けるのは兄が犯している事実。

「バグの機能を利用してフェイト君を傍に置いて、何がしたいの?これが、『勇者』に対する報復なの?…辱める事が?」

 私の目の前で、あんな事までして。

思い出し、少しだけ彼女の頬が染まる。
立つ事を妨げるかのように、床が少しだけぐらつく。
その、彼女の激昂にオーナーは暫く沈黙し、一度ため息を吐いてから、重い腰を上げた。
途端、軽い重圧が、彼女を襲う。

「…そんな事まで、妹のお前に報告しなければならないのか。」
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