-Story-

□Act.03 -再会-
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手を伸ばしたら、すぐの距離に居て。
抱き締めたらちゃんと、腕の中に居るというのに。
自分と恋人の間を、いつも突き離すのは、『目が覚める』という箇所にあった。
これ以上、こんなにも欲していた者が、簡単に手に入れば入る程。
探していた想い人が、一向に見つからないのであればある程。
彼の、アルコール量は増え、また眠りも一層深いモノへと、変化していく――。

「――ねぇ、聞いてるのかい?」

「…………ああ。」

暫く続いた沈黙を、痺れを切らしたのか、中々返答が無かった事に苛立って女の低い声が、ソレを掻き消した。
二つ名まであるこの男に、平然と強気で発言する女だったが、幾分か間を取って回答を待つ。
少しの間だったが、肩を並べて戦いをしてきた『勇者』の仲だ。
それぐらい、話してくれたっていいじゃないか、と。
その両の鋭い瞳が、騎士を見つめている。
肝心の騎士は瓶の底を眺めるだけ。再度瞳を閉じて、小さくため息を吐く。

「お前も知らないと言う確証はついている、阿呆。」

だから、早く出て行け。
何も話す事はないと、態度で表す。

「クリフ達には?」

「聞くまでもない。…誰も、知らん。」

その言葉を発する事に少し躊躇いを感じたのか、最後の方が少し擦れていた。
きっと、自分でも肯定したくなかったのだろう。
こんなにも、しおらしい彼の姿を、女は見た事が無かったくらいだ。
相当、世界から『フェイト』の存在が無い事に、衝撃を覚えているらしい。
背中を預けた勇者同士、少しは力になれるかと意気込んできた彼女だったが、その様子を見、無力だったかと首を軽く左右に振った。

「すまなかったね、役に立てなくて。」

「……別に。」

彼女なりの優しさを気配で感じ取り、気まずそうに、男はそう呟いた。
カーテンを引き戻し、また元の暗闇に戻す。
生身の腕で目元を隠して眠ろうとする男に、女は「邪魔した」とだけ言い、ゆっくりとした足取りで、ドアノブへと手をかけた。
キィッと音がして、部屋に再び一条の光がもたらされる。



扉を閉める直前。
「見つかるといいね」と、小さく聞こえ、ピクリと、男は反応したが。
すぐに、それは諦めに変わり、意識はまた眠りの中へと落ちていった。


「――『力』が、無いんだ…。」


まどろみの中はっきりと目蓋に焼きついた想い人の笑みに、切なさが立ち込め。
無力な自分を責めるかのように、男は拳に力を込めて、己を悔やみ続けた。



 少し前まではあった少年の残り香も、今はもう無い。
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