-Story-

□Act.10 -対峙-
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 誰を、信じればいい。


この記憶は、彼の記憶は。

恋人の声は、笑顔は。想い出は。



 何を信じれば、道が開ける?




    ― 対峙 ―




FD世界の一つ、ロストシティ。
その中心に位置していて、尚且つ天にも届きそうな一つの建物が、彼ら『敵』の住まう居城である。
スフィア社211。ゲーム世界「エターナルスフィア」の、基盤ともいうべき場所。
階層はその名の通り211階。
1階から100階までが極々平凡で、一般社員が行き来出来る活動範囲である。
101階から210階までが重役メンバーの私室や機密プログラム、重要データの保管庫が幾つも存在するので、その区間は認証IDか許可証が無ければ赴く事は出来ない。
それが、最上階ならば尚更の事。
全てを牛耳るオーナー-ルシファー・ランドベルド-の社長室が、其処に存在する。
その、身の丈よりも倍以上あるだろう社長室の扉を前に、男が一人。前を見据えて立ち尽くす。
長い黒髪を二つに束ね、先の戦闘で邪魔だった黒いマントを払い除ける、黒い甲冑に身を包む男が。
騎士の背格好で佇むソレは、王に謁見を求める姿にも似ているが、今はそんな穏やかな雰囲気ではない。
反逆の意を、敵対の意を、その赤い瞳に映し出す。
内に秘めた怒りの炎が、その中でギラギラと燃え始める。

「………。」

認証IDも許可証も持たず、加えて小一時間程前に強引に入り込んだ侵入者でもある為、自動で開くその二枚の鋼はびくともしなかった。
ご丁寧に、ロックまでされている。…が、そんな事。
『力』を得た騎士-アルベル-には、全く問題など無かった。
瞳を閉じて精神を研ぎ澄まし、額に青い紋章印を浮かび上がらせる。
翳した右手に『力』が集結し、ものの数秒でそれは一気に放たれた。


  ――ドンッ


爆風と共に、扉に大きく映し出された紋章印は直ぐ様能力を発揮し、丸く削り取るようにして物質を消滅させる。
塵一つ無く遣って除け、その様子に男は腰に手を当てて傲慢に鼻で笑った。
歓迎されていない事は百も承知。
事の発端は相手。だから、派手に壊し、自分の気が済むまで殴るだけ。
そうして、全てを終わらせればいい。
…たった一人。偽りの記憶を持つ少年にだけは、咎められるだろうけれど。

「……チッ。」

拒絶された時の事を思い返し、小さく舌打ちして、俯いてみせる。
心が痛い。忘れようとして、軽く頭を振った。
敵の前で弱い部分など、見せてはいけない。付け入る隙を与えるだけ。
分かっているからこそ、相手も知っているからこそ、あってはならない事。
無心の状態で歩を進め、柄を持つ手に力を込めて握り直せば、前方で声がした。

「――此処まで来れた事に敬意を表しよう。」

言葉は、低い響きを持って広いフロア全体に伝わる。
声の主は、忘れもしない。
自分を絶対とする、『神』を名乗る者-ルシファー・ランドベルド-。
現スフィア社オーナーであり、自分達『エターナルスフィア』の世界を創造した人間だ。
半楕円状の黒いデスクの先、ゆったりとした黒皮のチェアに腰を落ち着け、オーナーは歓迎でもするかの様に両腕を広げて騎士を迎え入れる。
だが、騎士は全く逆だった。

「――アイツを、返してもらう。」

スッ…と目を細めて足を止め、カタナを向けて敵対の意志を露にした。
そして、『力』を指し示す青い紋章印を、額に浮かび上がらせる。

「『アルベル・ノックス』。」

「………。」

ピクリと、眉が動く。
初めてその名で呼ばれた事に、騎士は違和感があった。
データごときの存在。それが、口癖でもあったハズだ。
それが、何故。今、この場でそう呼ぶのか不思議でならない。
一括りにそう言ってしまえば、下の階で偽りの時間を過ごしていた少年まで否定してしまうからか。
一度は否定した『データ』である人間を、『勇者』の一人で、最初に反逆の意を表した少年を。
その者を手元に置いて、一体何をしようというのか。
何が目的なのか。
未だよく、騎士には理解出来なかった。
無言で刃を突きつける騎士に、ルシファーは不敵な笑みを見せて、語り始める。
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