カラフルラプソディ
□正直、皆さんをバカにしてました
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『……』
正直に言って、火神がここまで黄瀬を追い詰めるとは思っていなかった。
いや、それだと少し語弊がある。
火神と黒子の2人が、だ。
火神と黒子だけではない。他の誠凛メンバーも、死に物狂いで海常に食らいついている。
『……』
ここまで、結衣の予想以上の試合をしている誠凛。
見ていてワクワクする試合なんて、久しぶりに見たような気がする。
『誠凛の4番…日向先輩もシュート決定率がなかなか高いなぁ…』
ここまで日向はあまりシュートを外していない。通常のシュートも3Pシュートも比較的良く入っている。
しかし、結衣が誠凛の中で一番気になったのは伊月俊。おそらくコートが“視えている”としか思えないような動きやパスを出しているように見える。
そうやって見てみると、誠凛というチームはなかなかに良いものを持っているのではないか。創部1年目で決勝リーグまで進むだけのことはある、ということか。まだまだ揃っていないところも粗い部分もあるけれど、黒子と火神が入ったチーム構成がこの4月からということを考慮すれば。
「すげぇ!日向先輩また3ポイント!!」
「5点差!!」
日向が放ったボールは綺麗にゴールに入り、誠凛に3点が追加される。
得点板には34対39。
『5点差…』
海常監督の武内も、誠凛の予想外の食らいつきに苛々が募っている様子を見せる。
海常メンバーにも戸惑いが表情に出ている。ここまでとは、誰も予想していなかった。
「おいおい…まだダブルチームの方がマシだぞ…!」
「ッ…黒子っち…」
「黄瀬君は強いです。ボクは疎か、火神君でも歯が立たないくらい…ですが…2人でなら…火神君となら戦える」
「…やっぱ変わったッスね、黒子っち。帝光時代にこんなバスケはなかった…でも、黒子っちがフルで40分持たない以上、後半じり貧になるだけじゃないッスか!」
「それはどうかな!」
「なッ…!?」
『…!』
笠松からのパスを受け、ゴールに向かって走り込んで行こうとした黄瀬の目の前に。
黒子が立ちはだかった。
その場面に結衣の表情も少し引き締まる。黒子と黄瀬が向かい合うなんて、思いもしなかった。けれど黒子が黄瀬を止めるなんて到底無理に思えてしまう。いくらなんでも、それはさすがにあり得ない。
だとすると、あと考えられるとすれば。
「…まさか、こんな風に黒子っちと向き合う日が来るなんて思いもしなかったッス」
「……ボクもです」
「でも、黒子っちに俺は止められないッスよ!!」
黄瀬が黒子を躱してゴールに向け走り出そうと踏み出す。
しかし、黄瀬が黒子を躱してすぐに火神が黄瀬の前に立ちはだかった。
「本命はこっちッスか…?」
「フッ…止めるんじゃねェ…!」
ニヤリと笑う火神。
その様子を見て、結衣は理解した。2人が何をしようとしているのかを。
黒子と火神の狙いは“黄瀬を止めること”ではないということを。
それはリコの指示でもあったようで、彼女の自信あり気な声もよく聞こえてきた。
「取るのよ!!」
「な…ッ!?(バックチップ…?!)」
黄瀬の後ろにいた黒子は、後ろから黄瀬が持つボールを弾く。弾かれたボールは日向に渡り、そのままシュートが決まった。
また、点差が縮まる。
黒子の影の薄さに慣れていない黄瀬だから、彼に後ろから来られたら守りようがない。
完全に火神と黒子の作戦勝ちとなった。
「ッ、だから何なんスか…!そんなの、黒子っちをかわさなきゃ良いだけっしょ!それに…誰も言ってないッスよ、スリーが打てないなんて!」
腰を軽く落として、3Pの場所からシュートを打とうと構える。
シュートを放ってしまえば、黒子に取られることはない。黒子にはシュートをカットすることは難しい。
だけど――
「おりゃあッ!!」
「な…ッ!?」
『……!』
黒子の頭を支えにして、火神が高く跳ぶ。黒子を支えに使った分、より高く跳べている。
簡単に黄瀬の3Pシュートをカットしてしまった。
「(やられた…!平面は黒子っちが、高さは火神がカバーして……!)」
3Pを打つにはモーションがかかってしまう為、火神たちからしたら取りやすいし分かりやすい。
ここにきて、火神と黒子のコンビプレーに磨きがかかってきている。
「ッし、速攻!!」
「ッ、させねぇッスよ!!」
速攻を仕掛けようと一瞬早く駆け出した火神。
彼の後を追おうと、向きを変えようとした黄瀬の手が――
『あ……ッ!』
「ッ!」
黒子の顔に、思い切り当たった。
振りかぶったような動きになってしまった手が当たった威力は、かなりのもので。その反動で黒子は床に座り込んでしまった。
「黒子…!」
「大丈夫か黒子!」
「…はい、大丈夫…です」
「な…!」
大丈夫です、とは言っているが、黒子の右目の上からは血が流れてきている。
瞼か、その上を切ってしまったようだ。
これはまずい、非常にまずい。結衣の嫌な予感は、的中することになる。
「試合は、まだまだこれからで、しょ……う…」
「く、黒子ーー!?」
『あーあ…やっぱり…』
そのままバタリと倒れてしまった黒子。やっぱり、と結衣の口からは自然とため息が零れた。
誠凛は黒子がいきなり倒れてしまったためすごく慌てているようで。彼女からしたら、黒子が倒れることはある意味いつもの事だったけれど。
「黒子っち…」
「終わったな……不本意ではあるが、黒子が欠けた以上誠凛に戦う力は残っていない…」
ある意味いつもの事ではあるけれど、でもこれでは。
今黒子が抜けてしまえば、正直もう試合が終わってしまうことが目に見える。黒子抜きで海常に、黄瀬に勝てる見込みはほとんどない。
―――そんなの、面白くない。