カラフルラプソディ

□さっきのは特に可愛かった
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「……緑間っち?ほら、焦げるっスよ?」

「…食べるような気分なはずないだろう」



腕を組んだまま動かない緑間に、黄瀬は鉄板の上のお好み焼きを指差しながら声をかける。しかし緑間は眉間にシワを寄せ動かない。
そろそろひっくり返さないと焦げてしまうのではないかと心配になってしまう。

火神と結衣の巨大お好み焼きは、火神が見事綺麗にひっくり返すことが出来、今は裏面を焼きにかかっている。
見事にひっくり返した瞬間は、しっかり結衣と小金井がムービーにおさめていた。ばっちりである。



『…真太郎、火神君にひっくり返してもらう?』

「は?オレが?」

『や、てっきり失敗するのが嫌でやらないのかと…』

「余計なお世話なのだよ」



それくらい自分で出来る。
そう言いながらヘラを両手に持ちお好み焼きをひっくり返す。裏面は少し強いキツネ色だが、とても良い焼き色になっている。

上手に返せて良かったね、と笑う結衣に緑間の眉間のシワは深くなるばかり。



「藍原、マヨネーズかけても平気か?」

『うん、大丈夫。鰹節も青海苔も大丈夫だよ』

「結衣さん、焼きそば少しいかがですか?」

『えっ良いの?じゃあテツもお好み焼き少し食べて〜交換しよ』

「ありがとうございます」

「オラ、焼けたぞ。お前の分…これくらいか?」

『え、多いよ。その半分で良い』

「こんなんで足りんのかよ」

『十分だよ。ね、テツ』

「僕は更にその半分でお願いします」

「あーはいはい」

「ねえオレの目の前でその仲良しアピール止めてお願い」



オレのメンタル、ズタボロなんスけど…とわざとらしく泣き真似をする黄瀬を緑間が鋭い視線で睨む。が、黄瀬はそんな視線ではへこたれない。

目の前で結衣が火神達と楽しそうにしているのを見せ付けられる方がよっぽど堪える。
というよりも、結衣達からしたら別に仲良しアピールでも何でもないのだが、黄瀬にはそう見えるらしい。



「…はあ、緑間っち〜。負けて悔しいのは分かるんスけど…ホラ!昨日の敵は今日の友って言うじゃないっスか!」

「負かされたのはついさっきなのだよ!」



変わらず仏頂面の緑間に耐え切れず黄瀬が声をかけるが、彼の表情はやはり変わらず。
むしろ、黄瀬の言葉を聞いて更に仏頂面になってしまったようにも見える。



「むしろお前がヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ。一度負けた相手だろう」

「…そりゃあ…もちろんリベンジするっスよ。インターハイの舞台でね!」



次は負けない、とばかりの挑戦的な瞳が火神と黒子を射抜く。
その思いを感じ取った火神は好戦的な表情を浮かべ黄瀬を睨み返す。黒子の表情は変わらなかったけれど。



「はっ、上等だぜ!臨むところだ!」

「………黄瀬、お前少し変わったな」

「え?そーっスか?」

「目が変なのだよ」

「目!?んーまあ…黒子っち達に負けてから、真面目に練習するようにはなったかも。あと最近思うのは…海常のみんなとバスケするのが、ちょっと楽しいっス」

『(涼ちゃん…)』

「…とんだ勘違いだったようだ。やはり変わってなどいない…戻っただけだな、あの頃に」



緑間の言葉にピクリと反応したのは結衣と黒子で。あの頃、という言葉に反応が見られたような気がする。
特に結衣の表情が、様子が変わった。それに気付いたのは黄瀬だけではなく、火神もだったようで。



「…けど、あの頃はまだ“みんな”そうだったじゃないですか」

「オマエらがどう変わろうが勝手だ。だがオレは楽しい楽しくないでバスケはしていないのだよ」

『…』

「…オマエらさ、ゴチャゴチャ考えすぎなんじゃねーの?楽しいからやってるに決まってんだろ、バスケ」

「……何も知らんくせに知ったようなことを言わないでもらおうか」



火神の言葉に緑間の表情が変わる。少しムッとしたようにも見える表情で隣に座る火神を睨みつけた、が、その時。

ベチャ、という音と共に何故かお好み焼きが緑間の頭に飛んできた。一瞬何が起きたのか理解出来ず、全員動きが止まる。



「……とりあえずこの話は後だ」

「し、真ちゃんゴメン手元が狂って…ねえ目が笑ってねーんだけどゴメンって!ねえ!ゴメ、ぎゃーーーーッ!?」



お好み焼きを飛ばした張本人、高尾の元にゆらりと歩いて行ったかと思えば、頭についたお好み焼きを手に持ち構える。緑間のその姿に全身で嫌な予感を感じる高尾は、その顔面でお好み焼きを受け止めるしか選択肢がなかった。



『…火神君の言う通りだよね』

「あ?」

『だって、つまらなかったらあんなに上手にならないでしょ?』



今日の試合を見て心から思った。
口ではあんなことを言っているが、きっと心の中では…そう信じたい。
緑間だけではない、他の彼らも。

それは、黒子も同じ思いだった。









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