カラフルラプソディ

□さっきのは特に可愛かった
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「い、いてて…ッ」

「無理…動けない…無理…」

「疲れた…普段の練習の倍疲れた…」



試合後のロッカールーム。
まるでゾンビのごとく身体を小さく震わせ座り込む日向達に結衣とリコは苦笑い。それ程までに王者との2連戦は体力的にも精神的にもギリギリのものだったようだ。



『皆さん限界みたいですね…』

「まああれだけの試合だったしねー。特に…火神君は相当無茶したし…でもどうしようか、いつまでもここにいるわけにはいかないし…」

『とりあえず皆さんには頑張って移動していただいて、近くのお店に入りますか?』

「うん、そうね!火神君、は立てそうにないみたいだから誰かおんぶしてあげて」



リコの言葉に全員が顔を見合わせる。
火神は身長190cmを超え、この中で誰よりも大きい。体力も限界な自分達が火神をおんぶとは正直厳しい。

全員が静かに右手を出した。



「……いくぞ!じゃんけん――!!」



何回かあいこを繰り返し、残念ながら負けてしまったのはこの中で最も火神をおんぶするのが難しいのではないかと思われる人物だった。体力万全な時でも厳しそうである。



「く…黒子…大丈夫か?」

「………」

『テツ…』



じゃんけんに負けたのは黒子。
火神をおんぶした黒子だが、おんぶと言うのか引きずっているというのか微妙な状態で。



「すいません」

「あ?」

「もうムリです」

「は!?テメ、黒子ふざけ…ぎゃーー!!!」

『……あーあ』



きっと誰もが無理だと思っていたが、やはり予想通り無理だったようで、火神は濡れた地面に思い切り落とされてしまった。かなりの大雨がしばらく降り続いていたらしく、火神はドロドロのびちゃびちゃである。



「ま、そうなるわな」

「黒子に火神は無理だろー」

「そう思うなら!なんで代わってくれねーんだよ!ですか!?」

「「「俺達もお前おぶさるとか無理だし」」」



疲れきった今なら自分達がじゃんけんに負けたとしても恐らく火神を落としてしまっていただろう。結局のところ、火神は汚れることになっていたということか。



『はい火神君タオル。ほら、あそこにお好み焼き屋さんあるよ。あそこまで頑張って歩こう』

「…くそっ」



結衣がタオルを差し出し傘を傾ける。
結衣に火神をおんぶすることは無理だが、支えながら歩くことは出来なくはない。そう思ったのだが、傘を火神に奪われてしまい。首を傾げる結衣に火神は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。



「オメーが傘持ってたら俺がめちゃくちゃ屈まなきゃなんねーだろーが」

『あ、そっか。じゃあ傘よろしく』



傘を預け、火神の腕を自分の肩に回させて支えようとしたらするりと腕を外され頭を軽く突かれる。
お前に支えられなくても一応歩ける、ということらしい。明かなやせ我慢であるように見えたが、結衣は特に何も言わずに火神の持つ傘に入った。

日向達はすでにお好み焼き屋に入り席を確保してくれているらしい。伊月が店の入口から手招きして呼んでいる。その表情がやけにニヤニヤしているように見えるのは気のせいだろうか。



「黒子マジホントに覚えてろよ…」

『やだ火神君とりあえず拭いてよ』

「……」



誰もが「黒子が火神をおぶさるのは無理だ」と思ってはいたが、さすがにこの雨の中地面に落としてしまったのは罪悪感を感じている。火神からチクチク嫌味を言われるのも仕方ないと思う。
しかし、自分の前を1つの傘に寄り添うようにして入っている結衣と火神を見て、正直黒子はそれどころではなかった。



「(あれ、思いっきり相合い傘じゃないですか。2人とも何故普通にしているんでしょうか。お互い何も思っていないからですかね。でも……)」



照れることも、恥ずかしがることもなく“普通に”1つの傘に入っている結衣と火神。お互いをただのクラスメイト、チームメイト、選手とマネージャーとしか思っていないからである。

だが、もしも。
もしも“彼”が今の結衣と火神の状況を見たら。考えるだけで頭が痛い。



「(あれ…何だか嫌な予感がしてきました)」

『…ちょっとー、火神君がぐちぐち言うからテツ落ち込んじゃったんじゃない?何も言わなくなっちゃったけど』

「はぁ?俺のせいかよ!?」



3人も、店の入口にたどり着いた。









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