カラフルラプソディ
□特訓の成果みせてよね
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続く2回戦、実善高校戦。
ここでも火神が1人で40得点の大暴れ。そして日向も絶好調ということもあり大差をつけて圧勝。
そして、3回戦の金賀高校戦。
昨年東京都ベスト16の攻守のバランスのとれた強豪校であったが、
『―――火神君、これで40得点目です』
「ビックリするくらい順調に勝ち進んでるわね…」
苦戦すると思われていた試合が、驚くほどに快勝、圧勝。
火神の力が発揮されていることもあり、黒子を出さなくても試合を誠凛の優位に進めることが出来ている。
それだけではなく、日向達2年生もどんどんと調子を上げている。
「(日向君達の動きが格段に良くなってる…それもこれも、結衣ちゃんが作成してくれた資料のおかげね…)」
『リコ先輩?』
「結衣ちゃんがちょっぴり怖くなったわ」
『え!?何でですか!?』
結衣が対戦校のデータを纏め、どこからの攻撃が多いのか、得点率や失点率、シュートの成功率、失敗率、各選手の運動量、こと細かにデータを出している。
その結衣のデータを元に、リコが作戦を組み立て予定通りの流れで試合を進めているのだ。
「これのおかげで作戦がすっごく立てやすいし、相手の弱点も分かりやすいし…ウチの切り札、出さなくてもまだ大丈夫そうだしね」
「なんだか少し複雑です」
『(テツ、うずうずしてる…)』
「(うわー出たそうー)」
自分が出なくても試合に勝てることは喜ばしいことだが、やはり選手としては試合に出たい。
その思いが体中から溢れ出ているのか、黒子の体がうずうずソワソワと小さく揺れていた。
「でもまぁ、結衣ちゃんのこのデータ見たら…キセキの世代の強さの秘密、なーんか分かった気がするわ」
『……キセキの世代に、わたしなんて必要ありませんでしたよ』
「え?ごめん、ホイッスルの音で聞こえなかった」
『――いいえ、なんでもありません!ほら、皆さん戻ってきますよ!』
試合のホイッスルが鳴り、選手達がベンチへ戻ってきた。
リコ、結衣、黒子や他の選手達も立ち上がり、試合に出ていた選手達を迎え入れる。
「結衣さん」
『ん?なぁにテツ?』
「彼らに貴女が必要なかった、なんてそんなことはありませんでしたよ」
『え、テツ聞こえて…』
結衣の言葉を聞き逃してはいなかったらしい黒子が、少し悲しそうに笑いながら結衣に呟いた。
そんな黒子の言葉に、結衣は返すことが出来なかった。
「いよいよインハイ予選も今日で4回戦かー!決勝リーグも見えてきたな!」
「ちょっと小金井くん!あんまり調子に乗ってると足元掬われるんだから、気をつけなさいよ」
「分かってるよカントクー!」
「浮かれる気持ちも分からんでもないがな」
「迂闊に浮かれる…キタコレ!」
「黙れ伊月。意味分かんねーし!」
初戦こそ、通過出来るかどうかと不安で始まった予選だったが、2回戦以降は特に問題はなく、むしろ順調に勝ち進んでる誠凛高校。
選手達も程よい緊張感の中、試合に臨むことが出来ている。
『…なんか、良い雰囲気だね』
「そうですね」
懐かしいね、と言葉が喉から出かかったが、今更懐かしんだとしてもあの頃に戻れるわけでもないし、やり直せるわけでもない。
だが、思わずにはいられなかった。
――あの頃のわたしたちにも、こんな風に和やかな雰囲気で試合の日を迎えていたことがあった、と。
あの頃はまだ、バスケを楽しいと、一緒にプレーをする仲間の存在も、確かに感じていたはず。
「……なーに辛気臭い顔してんだよお前ら」
『いった…火神君…』
火神の大きな手の平が結衣と黒子の頭を掴む。
辛気臭いなんて日本語分かるんだね、と笑う結衣の頭を仕返しと言わんばかりにぐしゃぐしゃに撫で回す。
『ちょっとー!何すんのよ火神君!』
「いや、なんか今バカにされた気がしたから」
『バカになんてしてないから!すごいね、って感心したくらいだよ!』
「ははっ、すっげー頭」
いつの間にか黒子を掴んでいた手も結衣の頭をぐしゃぐしゃに撫で回していた。
結衣と火神がじゃれあっている様子をすぐ傍で見ていた黒子は、その姿が別の人物と被って見えて。彼もまた、何だか懐かしいですね、と言葉が出そうになっていた。
「ほらそこ1年2人ー!じゃれあうなー」
『リコ先輩!わたし被害者です!火神君がわたしの髪をー!』
「んなっ!」
「コラ火神!結衣ちゃん虐めるんじゃないわよー!」
「虐めてなんてねぇ!です!」
「うわー藍原ちゃんの頭、鳥の巣みたいになってんよ。あ、水戸部が直してくれるって!」
『ありがとうございますー!』
「……」
『わああああッ!?』
「ちょっと青峰っち!結衣っちの髪の毛ぐしゃぐしゃにしないで下さいっス!!」
「ああ?んだよ黄瀬、羨ましいのかよ」
「何でそうなるんスか!結衣っちこっちに来て!直すから!」
「あららー、結衣ちんすごい頭だねー」
「人事を尽くさないからそうなるのだよ」
「ちょっと大ちゃん!結衣に何してんのよー!」
「青峰君、さすがにそれはヒドイと思います」
「テツまで…」
「――お前達、雑談をしているということはメニューは全て終わっているんだな?」
「「「「………」」」」
「(もう、失いたくないですね)」
楽しかったあの日々を。
楽しいと思えるこの日々を。