カラフルラプソディ

□頼りにしてるわよ
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「ここが男子バスケットボール部の部室よ!」

『へぇ……綺麗ですね』



放課後。
結衣はリコにバスケ部が使う大体の場所を案内してもらっていた。

まず案内されたのは、バスケ部の部室。使用し始めてまだ1年ちょっと、そしてまだ部員が少ないということもあるのか、かなりきれいに見える。



「そうね…まあ、まだ4月だから」

『?』



しかしリコはどこか遠くを見ながら乾いた笑みを浮かべていて。
彼女が「まだ」という部分を強調した意味が分かるのは、もっと先。

不思議に思った結衣だったが、「次行くわよー」と先へ進んでいったため詳しく聞くことが出来なかった。



「ここは洗濯場ね。この洗濯機は自由に使っていいものよ。汚れたものとか…大体ビブスとかだと思うけど、洗って干してくれると嬉しいわ」

『はい』

「物干しは部室に小さく畳んであるヤツがあるから、それ使ってね。これからの季節なら部活動中に乾くと思うんだけど…」



体育館を使う部活がここの洗濯場を使って良いらしい。
しかも、サッカー部や陸上部など主に屋外で活動する部活は屋外用の洗濯場があるらしい。
さすが新設校、と言いたくなった結衣だったが置かれた洗濯機が最新型ばかり揃っていることに気付き表情が引きつった。新設校こわい。



「あとは……マネージャーって、基本どんな仕事とかするの?帝光ではどんなことしてた?」

『えーっと……そうですね。練習記録取ったり、1軍だけじゃなくて2軍や3軍の様子も時々見たり…あとはドリンク作ったり』

「ドリンク?」

『はい。結構好評だったんですよ!粉末のスポーツドリンクあるじゃないですか?あれに蜂蜜入れたり、レモンを入れてさっぱりさせたり…選手によって好みもありますし、合わせてました』

「1人1人に作ってたの!?」

『あはは…さすがに100人近く部員いましたから…個別に用意していたのはレギュラーだけです。他はウォータージャグで一気に作ってご自由に、と』

「へぇ…」



話を聞いていたリコは、ふむ、と顎に指を当てながら何か考えているようで。
結衣も懐かしさに目を細めていた。しかし、懐かしさと同時に感じる寂しさもある。



『と言っても、スポーツドリンクも飲み過ぎ良くないみたいで…1日練習の時はスポーツドリンクとは別にレモン水とか用意したりもしてました』

「…よし、結衣ちゃん。明日からその結衣ちゃんお手製ドリンク作って。粉末やらレモンやら蜂蜜は部費から出す」

『え?あ、でもレモンとか蜂蜜とか常温で用意しておくのは…』

「問題ないわ!ウチから小さい冷蔵庫持ってくるから!この間懸賞で当たったんだけど使い道なくてねー!」

『重たいんじゃないですか?』

「大丈夫!日向君に取りに来させるから!」



「朝には部室に入れとくから!」とリコ。
日向のいない所で彼の新たな仕事を作ってしまった。すみません日向先輩、と心の中で謝るが自分にリコは止められそうにないので許してほしい。



「じゃあ…結衣ちゃん、悪いんだけど必要なもの買って、明日持ってきてくれる?買ったものは領収書つけてね。部費からお金返すから!」

『はい』

「あと説明が必要な場所は…うん、特にないかな!分からないことあったら、何でも聞いてね」

『分かりました』



「じゃ、体育館行こうか」とリコが部室を出る。
結衣も彼女を追って部室を後にした。



「ちゃんと練習してるわね」

『……』



体育館では、ちょうど走り込みをしている最中だった。
汗を流して練習をしている部員の中に黒子の姿もあって。きちんと彼を見つけられて安堵するが、見るからにへろへろな状態の黒子に苦笑いが浮かぶ。体力の面は相変わらずらしい。



「降旗君!河原君!頼んでたもの持ってきてくれた?」

「はい!」

「こちらです!」

「ありがと」

『これは…?』



ステージの部分に置かれた段ボール。しかも3つある。
何かと中を覗いてみると、そこには分厚いファイル。いくつも入っているらしい。おそらくかなりの重さになったのではないか。



「去年からの試合記録と練習メニューよ全部の記録がそこに入ってるわ」

『…これ1年分ですか?』



1年分にしては多いように見える。
ファイルを1つ手に取って中を見てみると結衣はとても驚いた。



『(細かい…)』

「試合記録は練習試合も含まれてるからまあまあ多いかな。内容は簡単にしか記録してないから、参考になるのは得点くらいかもだけど…」

『練習記録…この練習メニューって、リコ先輩が作ったものなんですよね?』

「ええ、そうよ」



文字で見るだけでも分かる、キツそうな練習メニュー。だけど、内容はしっかり考えられている。
次の対戦校に合わせた練習メニューや、試合からの反省を反映させたメニュー。しっかりと“分かっている”からこそ考えられるメニューだと感じた。適当に組み立てたとしてもここまでの高レベルなメニューは考え付かないように思う。



『何と言うか…凄すぎです』

「ホント?これでも色々考えて作り込んだつもりだから、嬉しい!」

『…創部当初からこんなメニューしていたんですか…?』



一番古い練習メニューを見てみると、その内容に少し引いた。
バスケ経験者ならまだしも、未経験者がいたらさぞかし辛かっただろう内容。

しかし、しっかり取り組めば確実に力になるメニューだと感じる。



「えへへー」

『…』



可愛い顔で笑いながら中々えげつないリコに結衣は冷や汗を流す。2年生達がなかなかに鍛えられている部分も見えたのはこのためだったのかと納得した。相当扱かれてきた1年間だったのだろう。



『…この資料はゆっくり見させてもらいますね。今日はまずは…』

「選手の詳細データ、よね?」

『!…はい』



待ってましたと言わんばかりのリコに若干苦笑いを浮かべながらも、結衣は手に持っていたノートパソコンを開く。
すると、リコがキラキラした表情でパソコンを覗き込んできた。



「へぇ…それが噂の…」

『噂なんですか、コレ?』



2人でステージの上に座り込み、パソコンが起動するのを待つ。
これは、結衣の相棒のパソコン。

帝光時代も、このパソコンでデータを取ってきた。自分のチームも、相手のチームも、色んな視点からデータを取ってまとめてきた。
楽しかった頃も、辛くなってきた頃も、苦しかった頃も、このパソコンは知っている。



「詳しいことは知らなかったけど、かなり細かいデータが取られてるって話なんでしょ?」

『そうですね…細かいか細かくないかと言ったら…細かいと思います』



結衣が帝光バスケ部のマネージャーとして行っていた仕事は、ドリンク作りや各選手の様子見だけではない。
このパソコンを使って、選手それぞれの細かいデータを取ってきた。

例えば、1試合中にシュートを打った数。その内決まったシュートの数。シュートを打った位置。それぞれの位置での決定率。スティールの数。スティールパターンの内容。
このデータを元に選手の苦手なスタイル、行動パターンを割り出す……のが、結衣ともう1人のマネージャー桃井さつきの仕事だった。



「ね、今まで結衣ちゃんが記録してきたデータを後で見せてもらっても良い?」

『いいですよ。でも、まずは……』



わたしの作ったこんなデータで良いのならいくらだってお見せしますよ、と結衣が笑うとリコは満面の笑みを浮かべる。嬉しそうなリコの表情を見ながら、起動したパソコンをカタカタと操作して結衣は新しいファイルを作った。
ファイル名はもちろん、誠凛高校。



『誠凛高校バスケ部の皆さんのデータを簡単に取ってからってことで…リコ先輩、まずは日向先輩の身長体重をお願いします』

「任せて!日向順平。身長178cmで体重68kg。ポジションはSGのクラッチシューター。次に――…」



まずは2年生達の身体データを入力していく。
細かいプレースタイルや決定率などは、試合を重ねていく中でまた記録していくことになる。



「――…が、河原君のデータよ」

『はい。ありがとうございました!というか、やっぱりリコ先輩すごいですね…視るだけで身体能力とか分かるなんて』

「小さい頃から沢山見てきたからねー。癖みたいなものだよ」

『さすがです。…さて、誠凛の選手のデータはこれくらいで…』

「あ、あと1人いるんだ、選手」

『…え、そうなんですか?』



そこで結衣は首を傾げた。誰か聞き忘れた人がいただろうか。画面の中の人数を数えてみると10人。今結衣達の前で練習している人数も10人。昨日の海常とも練習試合にいた人数を思い出しても確か10人。
一瞬忘れたのは黒子かとも思ったがちゃんと黒子テツヤのデータも登録されていて。ということは。



「今は入院してるんだけどね…復帰ももう少し先かな……一応、そいつのデータも話すね!」

『はい、お願いします!』

「名前は―――」







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