カラフルラプソディ

□正直、皆さんをバカにしてました
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「火神!」

「やらせねーっスよ!!」

『………』



実力差は確かにあった。
黄瀬だけではない、海常メンバーと誠凛メンバーの間には確かに実力差があった。

そのはずだったのに。



「79対74!誠凛5点差まで追い上げてきたぞ!?」

「おいおい…!大丈夫かよ!?」



目の前で繰り広げられている試合はほぼ互角。
いや、少しずつ追い上げを見せている誠凛の方が、あるいは。



「すごい…火神君の動きが格段に良くなってる…」



結衣の隣に座るリコから呟きが聞こえてきた。
確かに火神の動きは良くなったように見える。けれど、それは黒子が戻ってきたから。パス回しがスムーズになり、攻撃パターンも増えて。火神の良さが更に引き立っているように見える。

―――ねぇ、テツ。
わたしやっぱり……。



「すげえ!80対82!!」

「2点差だ!!!」

『―――…好きだよ、テツのバスケ。あいつらが何と言おうとも』



日向がボールを放つ。体育館にいる全員がボールを目で追った。

ボールは、綺麗な軌道を描き、そして――――綺麗にゴールの中に吸い込まれた。



「よっしゃあ!82対82!!」

「ついに同点に追い付いた!」

「先輩達すげぇ!!!」



誠凛1年生トリオがはしゃぐ。
リコも小さくガッツポーズを見せる。

残り4分21秒。
誠凛が、ついに同点に追い付いた。



「………同、点…」



得点板に表示された点数を見て、そして喜んでいる誠凛の選手を見て、黄瀬は動けずにいた。
信じられない。こんなこと、有り得ない。



「………」



誠凛ベンチに目をやると、結衣が真剣な表情でコートを見つめていた。
祈るように、願うように組まれた手に力が入っているのが離れた所からでも分かる。



「………フッ」



黄瀬の目に、一層力がこもった。



『?(涼ちゃん…?)』

「……?」

「ッ?」



結衣と黒子と火神は、黄瀬のその変化に気付いたらしい。
何かが変わった。黄瀬が纏う雰囲気が。



「黄瀬ッ!!」



笠松から黄瀬にパスが渡る。
ボールを受け取ってすぐ、ドリブルでゴールに向かう。



「黒子!!」

「はい!」



先程と同じように、黄瀬の後ろからボールを弾くバックチップを仕掛けようとするが黄瀬はそれを読んでいたかのようにボールを持ち替えた。



「…!」

「(バカな…!黒子の動きまで見切ったって言うのかよ…!?)」



誰にも止められることなく、黄瀬はダンクシュートを決めた。



「オレは負けないっスよ…誰にも……黒子っちにも…!」



まっすぐ、黒子と火神を見据えて言い放つ。
その表情は、先程までとは全く違う引き締まった表情だ。

得点板は、82対84。



「全員気合い入れろ…ここから第1クォーターと同じ、ランガン勝負だ!!」



日向がチームに声をかける。
キャプテンの彼の言葉に、チームの士気も上がった。



「…行くぜ黒子!」

「はい…!」

『………』



日向が言ったように、まるで第1クォーターの時のような試合展開が繰り広げられている。
1本入れたら相手も1本入れる。お互いの力を真っ正面からぶつけ合っているようだ。



『(涼ちゃん…)』



ただひたすら、がむしゃらにゴールを目指す黄瀬の姿が、酷く懐かしく見えた。
息が苦しくなるほど、手の平にじんわりと汗が滲むほど、試合に見入っている自分に気付いてまた苦しくなる。



「…残り、2分11秒」



91対93で、誠凛が2点リハインド。
まだ、全然諦める点数なんかではない。どちらも気を抜けない、そんな試合。



「行けーッ!火神ーッ!」

「日向先輩ーッ!!」

「……みんな…」

「残り、22秒…!!」

『……』



98対98の同点。
時間がもう無い。次のシュートが最後のシュートになるかもしれない。

ボールは、笠松の手に。



「時間ねぇぞ!!ここを取れなきゃ終わりだぞ!!」



日向の声が響く。
笠松にシュートを決めさせてはいけないとディフェンスに力が入る。



「くそ…!」

「火神君!!」

「!?」

「ここを取れれば、黄瀬君にコピーされない手が1つだけあります。…1回だけの、簡単な手ですけど…」

「黒子……」

『……テツ…?』



黒子と火神が何かを話していたように見えた。ほんの一瞬。わずかな時間。
火神は、ニヤリと笑みを浮かべてボールの方へ走っていった。



「(残り10秒切った…ウチに延長戦を戦う体力は残っていない…!)」



残り時間は10秒無い。このまま同点で10秒経過したら、延長戦ということになる。
だけど、第4クォーターでここまで激しく動いて試合を進めていた誠凛には、もう体力はない。延長戦になったら、負けは決まったも同然だろう。



「守れ守れ!」

「デフェンス厳しく!!」

「守るんじゃダメ!攻めて!!」

「!」



リコの激が飛ぶ。
彼女の言葉を聞いて、日向の目にさらに力がこもった。



「クソ…ッ!?」

『あ…!』



一瞬の隙をついて笠松がシュートの姿勢に入った。
ノーマークのまま笠松の手からボールが離れる。



「やべぇ…ッ!!」

「うおぉおおおおお!!」

「な…ッ!?」



完全に入るシュートだった。
それを、走り込んできた火神が跳んでカットしてしまった。その俊敏さと跳躍力に笠松が大きく舌打ちをする。



「あれをカットするかよ普通…!?」

「走れ!!」



火神がカットしたボールは日向の手に。
日向は、そのままボールを放り投げた。火神と黒子の走るところへ。



「抜かせるなッ!!」



日向が投げたボールは火神に渡る。
火神と黒子の行く先には黄瀬の姿が。日向の動きを見て、先回りをしたらしい。

黄瀬が止めて同点延長戦か、火神が決めて試合終了か。



「黒子!!」

「な…!黒子っちにパス!?」



火神は黄瀬を抜く前に黒子にパスを送る。
黒子にシュートは出来ない。だから、火神に返すしかない。だが、それだと先程と同じになってしまう。黄瀬だって読んでいるはず。

ここで、結衣は気付いた。黒子と火神が最後に何をしようとしているのかを。



『まさか……』

「(黒子っちにシュートはない…!)火神に返すしか……」

「……」

「な…シュート!?」



黒子はゴールに向けボールを放つ。黄瀬は、まさか黒子がシュートを放つとは思っていなかったようで一瞬動きが止まった。

しかし、ボールはゴールへの軌道から外れている。
だからこそ、火神と黒子はこれを狙っていたのだろう。



「火神…!?まさか、アリウープ…!?」



黒子のシュートしたボールに向かって火神が跳ぶ。空中でボールを取り、そのままゴールに入れるつもりなのだろう。
黄瀬も火神の意図に気付いたようだ。



「させねぇッスよ!!」



火神の背後で黄瀬も跳ぶ。
火神が取ろうとしているボールを取ろうというつもりらしい。

ほぼ同時に、2人は跳んだ。



「(……な…同時に跳んだハズなのに…オレの方が先に落ちてる…!?何なんだ…お前のその宙にいる長さは…!)」

『火神…君』

「お前のお返しは、もういらねぇよ!なぜならな…!!」



空中では火神が競り勝った。
黒子のシュート(シュートと呼べるかは別として)を受け取ったのは火神。



「これで…終わりだからな!!」



そのままゴールに叩き入れた。


―――ピピーーッ!!


火神のシュートと同時に、試合終了の笛が鳴り響いた。











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