カラフルラプソディ

□正直、皆さんをバカにしてました
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『誠凛バスケ部1年生3人!』

「「「え?」」」

『ちょっと』



上のランニングコースから手招きをして、誠凛の1年生3人を呼ぶ。
降旗、河原、福田の3人は日向達が運んでいる黒子の様子を気にしながらも、彼女の下まで駆け寄ってきた。



「な、なにか…?」

『ちょっと、そこにいてね』

「「「は…?」」」



疑問を浮かべる3人を余所に、結衣は手摺りに足をかけた。下の3人は結衣の行動に「え゙!?」と表情が引きつる。当然である。

そして、結衣の近くにいた海常バスケ部員達は、彼女が手摺りを跨いだことに「何してんだあの子!?」と驚いている様子。当然である。



『いっくよー』

「え、ちょ…!?」

「まさか…!!」

『それっ』

「「「飛び降りたーー!?」」」



簡単な掛け声と共に、何の躊躇いもなく下に飛び降りる。
あまりに突然すぎる彼女の行動に驚くのは当然のことだった。平然としているのは結衣だけである。



『よっと…!』

「ちょ、何して…いきなり!(白だった…)」

「なんの説明もなしに…!!(白だった…)」

「ビックリした…超ビックリした……!(白だった…)」



誠凛1年3人を軽くクッションにして着地する。結衣が軽かったこともあり、下の3人も彼女もケガをすることなく着地することが出来た。
降旗達も瞬時に彼女のやろうとしたことを察して、すぐに支えるような体制になってくれた。彼女のパンツが見えてしまったことは黙っておこう。



『ありがと3人組!』

「あ、いや…」



呆然としている3人を置いて、結衣は急いで誠凛ベンチに向かう。
誠凛の2年生達も、今の彼女の行動を見ていたようで完全に動きが止まっていた。黒子を抱えた日向と伊月も結衣の行動に動きを止めていた。



「あ…危ないじゃない結衣ちゃん!ビックリした!!黒子君が倒れたことよりもビックリしたじゃない!」

「お、おおお女の子があんな高さから飛び降りたらダメだろ!!」



いち早く我に還ったリコと日向に怒られる。けれど、今その説教を聞いてる場合ではない。



『監督さん!救急箱貸してください』

「救急箱…?そうだ黒子君!日向君、黒子君は…!?結衣ちゃんがいきなり飛び降りてくるから黒子君のこと忘れてた!」

『大丈夫です。テツはちょっとの血を流すだけで倒れちゃうくらいなんで…特に心配はいりません。でも、止血しないと。日向先輩伊月先輩、テツをこっちへ』

「お、おう!」



別に用意してもらったベンチに黒子を横たわらせて、処置をする。
傷の様子を見てみるが、思った通り傷はたいしたことないようで。血の割に傷は深くはない。



「さすが…手際良いわね…」

「手慣れてるな…」

「結衣ちゃん…黒子君の様子はどう?」

『傷はたいしたことありません。血もすぐに止まったので…ですが、試合に出すのは止めておいた方が良いかと』

「そうよね……」



結衣がそう言うと、日向達は肩を落とした。
試合の流れを作っていた黒子がいなくなったら、そうなってしまうのも無理はない。



「黒子抜きだとキツいな…」

「どうする、カントク?」

「……」



目を伏せて考え込んでいる様子だったリコが、ふいに顔を上げて結衣を見た。真っ直ぐ、真剣な瞳が結衣を映す。
リコのそのあまりに真っ直ぐな視線を受けて、結衣はゆっくり口を開く。



『……正直、皆さんをバカにしてました……特に火神君』

「なんでだよ!?」

『キセキの世代に勝つ、なんて目標達成出来る訳無いって思ってた……ううん…今だって思ってる』

「…」

『でも、さっき言ってたよね…“勝てねェくらいがちょうどいい”って』

「…ああ」

『衝撃だった。そんなふうに考えたことなかったから。勝つことがすべて、勝つことが当たり前だったから…“勝てないかもしれない”なんて考えたことなかった』



だから、気に入った。
勝てるか勝てないか分からない状況で、勝つために“頑張る”姿に、意思に、行動に。



『火神君…君に、君のバスケに…興味が沸いた』

「興味…?」

『勝ちたい?涼ちゃんに…黄瀬涼太に…』

「!」



火神が真っ直ぐ結衣を見る。力強い瞳が彼女を映す。先ほど、リコが結衣を見ていた目とはまた違う。
瞳の奥でメラメラと炎が燃え盛っているような、そんな力強い瞳。



「ち、ちょっと!君、危ないじゃないですか、あんな所から飛び降りるなんて…!しかも、誠凛メンバーじゃないですよね…?」

『…(どうしよう)』

「こ、この子はウチの臨時マネージャーなんです!ほら、あたしが監督だから!マネージャーいないから!臨時に!」

「(カントク意味全然分かんねぇえ!)そうなんすよ!臨時マネージャー!まったく、遅刻してきたらダメじゃないか!はやくベンチに来なきゃ!」

「え、でも彼女最初からいましたよね…?しかも上から試合見てましたよね…?」

「だ、誰かと勘違いしてるんじゃないですか?」

「………分かりました。そういうことにしましょう」

『(良いんかい…)』



通常であれば絶対に認められないが、これが練習試合であることが幸いしたようで。
少し迷ったような素振りを見せた彼だったが、一応納得したようでコート内へと戻っていった。



「……ふぅ、何とかごまかせたわね…」

「ごまかし方ハンパなく意味分かんなかったけどな」

「こ、細かいことは良いでしょ!こっちだって色々テンパっちゃったんだから……」

『すみません。ありがとうございます、日向先輩と監督さん』

「良いの良いの、こっちも助かったし……それで結衣ちゃん、結衣ちゃんなら…どうする?」



結衣に問いかけてはいるものの、リコの表情からするにきっと彼女の中では答えは出ているはず。そして、きっとその考えは自分と同じもののはずだと、結衣は何となくだが感じた。

それと同時に、自分が口出しをしても良いものかと思った。
だって、それをしてしまえば。



『………』



迷った結衣は、リコから視線をずらしコートの中に目をやる。
すぐに黄瀬と目が合った。

不安そうな、心配そうな、悲しそうな……色んな思いが混ざったような表情の彼と目が合う。



『(ごめんね…涼ちゃん)火神君。今からオフェンス禁止』

「はぁ!?」

『涼ちゃんに勝ちたいんでしょ?』

「いや、勝ちたいけど!」

『なら禁止。オフェンスしながら涼ちゃんのデフェンスに入る、なんて無理だってこと、もう気付いてるでしょ?』

「う…」

『たとえデフェンスに専念したって涼ちゃんを完全には止められない。なら、出来るだけ粘って取られる点を最小限にしるしかないでしょ』



そう言うと、火神は口を尖らせて明後日の方向を見た。
見るからに納得していない様子の火神だが、結衣は怯まない。リコも結衣と同じ考えだったため、彼女の意見に同意する。



「結衣ちゃんの言う通りね。火神君、分かった?」

「でも!」

「(分かってないわね…)オフェンスは2年生主体で行こう。火神君と黒子君いないから、攻撃力は落ちるけど…」

『日向先輩のシュート決定率、かなり高めなので少し頼り気味でも大丈夫だと思います。あとは、コート内は伊月先輩の“目”に任せます』

「!」

「え、結衣ちゃん知って…?」

『見てたら何となく分かります。見えてるんですよね?』



きっと伊月は見えている。コート全体の様子が。先程の試合の動きを見て感じたものは間違いないはず。

その証拠に、伊月は結衣の言葉に笑って頷いた。日向とリコは驚いてる様子だが。



「(さすがキセキの世代のマネージャー…)」

「待ってくれ……ださい!」

「ださい?」

「オフェンス、俺にもさせてくれよ!…ださい!」

「だから、火神君はデフェンスに…」

「でも…!」



デフェンスに専念しろという作戦に納得がいかない様子の火神は、必死にリコに食らいつく。リコは全く聞く耳を持っていないようだけれど。

それでも諦めきれない火神が再度口を開こうとした時、笑顔を浮かべた日向が火神の肩を掴んだ。



「良いから黙ってろだアホ。少しは先輩を信じろ、殺すぞ」

「え゙…」

「ったく…最近の若いモンは…もっと先輩を敬え!そして平伏せ!!」

「本音漏れてるよーキャプテン」

『(本音…?)』

「気にすんな、スイッチ入るとああなるから。本音漏れてる間はシュートそうそう落とさないから、心配すんな」

「は、はあ…」



性格が変わったように、口から漏れる言葉は荒れている様子の日向。あまりに違う姿に目を丸くした火神と結衣だったが、他のメンバーには馴染みの姿らしく驚いている様子の者はいない。
あれを、クラッチタイムと呼ぶらしい。



『……』

「…ありがとう結衣ちゃん」

『…いえ…』



コートへと戻っていく選手たちの背中を見送くりながら、頭の中がぐるぐるするのを感じていた。これで、本当に良かったのだろうか。
黒子が倒れたのを見てつい体が動いてしまって、つい口まで出してしまって。

先程の黄瀬の悲しそうな表情が、頭をちらついて離れない。











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