カラフルラプソディ

□さっきのは特に可愛かった
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第4Q、最後のタイムアウトを取った時に結衣は確かに黒子に伝えていた。
緑間のブザービーターに気をつけろと、もし仮に試合終了間際にブザービーター狙って3Pを撃とうとしてきたら、おそらく火神は限界を超えてもう一度跳べるだろうと、そして緑間は火神が“跳べる”と信じてきっとフェイントを入れてくると。だから、そのもしもの時は――そこまで結衣が言いかけると、黒子は「分かりました。火神君と、緑間君と……そして結衣さんを信じます」と、そう言って微笑んだ。

そして今、試合終了を知らせるホイッスルが鳴り響く。
ブザービーターを狙ってフェイントをかけ一旦ボールを下げた緑間を、背後から黒子がボールを弾いたその瞬間に。
得点板に表示された誠凛82対秀徳81の数字を、結衣は静かに眺める。思考が停止している。



『……』



向かい合って礼をして、黒子達がベンチへ戻ってくる。
待ちきれないとばかりに小金井は日向達に飛び付いていき、彼らにゆっくり歩み寄ったリコは目尻に浮かんだ涙をこっそり拭っていて。降旗ら3人組も肩を組み合って喜びを共有し、黒子と火神もお互いの拳を合わせている。

そんな様々な様子の彼らを、結衣はベンチに座ったままぼうっと眺めていた。
動かない結衣に気付いた黒子と火神が彼女の元に近寄っていく。



「結衣さん」

「勝ったぜ!!お前、なに間抜け面してや、が…る…」

「……あーあ、火神君が泣かせたんですよ」

「俺かよ!!?」

『〜〜〜〜っ』



近くで黒子と火神の表情を見たら、ジワジワと目頭が熱くなってきて。抑え切れないものが涙と嗚咽になって溢れ出て来る。
数時間前の正邦戦では泣かなかったのに。突然に泣き出した結衣に火神は見るからに慌てふためき、黒子はそんな火神をいつもの読めない表情で見ていた。



『お、おめ…っ、おめ、でとう…ッ!』



試合に勝って、涙が出るほど嬉しいと思うのはおそらく…中2の全国制覇の時以来なような気がする。かなり久しぶりだ。
嬉しいという思いが、次々に涙となって溢れて止まらない。



「……ったく…泣いてんじゃねーよ。せっかく勝ったんだ……お前は笑ってりゃいーんだよ」

『うう…』

「火神君は“結衣さんのおかげで勝てたんだ。笑顔でおめでとうと迎え入れてほしい”と言いたいんですよ、結衣さん」

「そこまで言ってねーよ!!?」

「違うんですか?」

「ちげーわ!!」



黒子と火神のやり取りに、少しずつ笑いが込み上げてくる。
ゆっくりと顔を上げると、汗にまみれた顔で満足そうに笑う2人の顔が飛び込んできた。



『っ、ふふ……そうだよね、嬉しいのに泣いてちゃダメだよね…!』



ゴシゴシと乱暴に涙に濡れた顔を拭く。強く擦ってしまったために目元と鼻が赤くなってしまっているが、そんな表情もまた可愛い。
涙を拭った結衣は、満面の笑みを浮かべて立ち上がった。



「おめでとう!テツ!!火神君!!」



結衣のその言葉に黒子と火神の頬も緩む。
そんな3人の微笑ましい様子を見ていた2年生達も結衣のまわりに集まって来る。

日向や伊月が結衣の頭を撫で、水戸部が微笑んで大きく頷く。小金井が結衣に抱き着いたのを土田が慌てて引きはがし、リコが結衣をしっかりと抱きしめた。



「結衣ちゃん、お疲れ様。たくさんありがとう」

『…わたしじゃ、ないです…リコ先輩と…皆さんが頑張ったから…』

「何言ってんだ。お前が相手チームの情報掴んで作戦立てやすくしてくれたんだろーがダァホ」

「お前のおかげだよ、藍原」

「そーそー!藍原ちゃんがいてくれたおかげ!!さっすが頼りになるーー!!」

『皆さん……』

「結衣ちゃんも、みんなも頑張った。全員で掴んだ勝利よ!」



止まりかけた涙が、また溢れてくる。どうしてこうも嬉しすぎる言葉ばかりかけてくるのだろう。
全員で掴んだ勝利、という言葉がひどく温かくて、切なくて、嬉しかった。


嬉しそうに笑い、そして涙を流す結衣の様子を、黄瀬と緑間が複雑そうな表情で見つめていたことに彼女は気付かなかった。









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