カラフルラプソディ

□全力で、皆さんを支えたいです
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『古武術…ナンバ走り…ふぅん、なるほどねぇ』



数ヶ月前の月バスの特集記事を眺めつつ、パソコンの画面に目をやる。
北の正邦、と呼ばれるだけはありその動きも技術もそこら辺のチームとはまるでレベルが違う。

特に、



『この坊主頭の…津川智紀。一回帝光の時に対戦してたな』



あれはまだ、入部して間もなかったとは言え黄瀬を止めたことのある男。がっつりしっかりマークにつかれて、とてもやりにくそうだったのを覚えている。
試合に負けはしなかったが、記憶には残った選手だった。



『……どうしようかな』



真剣な眼差しで画面の津川を追いかける。だが、厄介なのはもちろん彼だけではない。
他の選手達も十分厄介であり、このチーム独特の特徴がとてもよく表れている。

どう、攻略していくか。



「――お待たせ結衣ちゃん、ココアで良かったかしら?」

『あっ、はい!ありがとうございますリコ先輩』



リコからマシュマロの浮かんだココアを受け取り、一口飲み込む。ココアのほろ苦さとマシュマロの甘さがフル回転の頭の疲れを癒してくれるような気がする。
結衣の背後からリコもパソコンの画面を覗き込む。正邦の試合運びを見て、思わず溜め息をついた。



「はぁ、去年も思ったけどやっぱり厄介ね正邦……どう、結衣ちゃん?」

『去年の試合記録も見せてもらいましたが、今年はまた少し違いますね。やってることも試合スタイルも同じなんですが、今年加入した1年生が…火神君がマズイかもです』



ここは、リコの部屋。

何故結衣が彼女の部屋にいるのかといえば、明日の放課後、正邦戦に向けスカウティングを行うためにまず結衣とリコで情報を纏めるためである。



「…それなんだけど結衣ちゃん、1つ良いかしら?」

『?』

「日向君達とも少し話したんだけどね、正邦戦は…火神君と黒子君はすぐに下げようと思うの」

『え…?』



リコの言葉に結衣は疑問を浮かべる。
火神と黒子のコンビはまだまだ発展途上ではあるが、試合では十分に通じるはずである。もちろん、2年生も鬼のようなリコのトレーニングメニューで鍛え上げられているため力はかなりついている。

でも、不安は残ってしまうのは事実。



「理由は2つ。1つは温存よ。正邦に勝ったら次は秀徳…王者との2連戦で、火神君と黒子君は秀徳戦のために温存しておきたいの。もう1つの理由は……先輩の意地」

『意地、ですか…?』

「去年の試合映像を見てもらったから分かると思うけど、ウチは去年正邦に文字通りボロ負けしたわ。あの敗戦から、日向君達はそれこそ死ぬ思いで練習を続けてきた。勝つために」

『勝つ、ために…』

「まあ、こうやって結衣ちゃんに頼ってる時点で先輩の意地も何も無いんだけどさ…」



そう言いながら手元の資料に目をやるリコを見つめる。
去年の映像を見て、今の日向達を見ればどれだけの練習をしてきたのか一目瞭然。勝つために、取り組んできたのだ、彼らは。

そして、そんな彼らに頼ってもらえている、必要としてもらえていることが、何だかむず痒くて…心がふんわり温かくなる。



『勝ちましょう、リコ先輩』

「結衣ちゃん…?」

『先輩達に意地があるなら、わたし達後輩には敬意があります。こんなわたしじゃ、頼りないかもしれませんが…全力で、皆さんを支えたいです』

「……なーにが頼りないかもしれませんが、よ。そんなことないっつーの!もっと自信持ちなさい!貴女はすごいのよ、結衣ちゃん!」



そう言って結衣の肩を抱くリコに、結衣は鼻の奥が何だかツーンとするのを感じた。
この人達の力になりたい、サポートをしたい、自分に出来ることなら何でもしない。素直にそう思えた。

とても、懐かしい気持ちだった。



『っ、ふふ…ありがとうございますリコ先輩。そんなこと言っていただけたら、何が何でも正邦の突破口を見つけ出さなきゃですね』

「骨が折れるわよ〜」

『勝つために、ですもんね!』



結衣の言葉に、リコが力強い眼差しで頷く。
2人でいくつもの資料を広げ、映像を再生する。少しでも気になるところはピックアップし、各選手の細かいデータも取っていく。
膝の動き、腕の動き、身体の動き、全てのデータから情報を得ていく。

この日、情報収集にあまりに夢中になり時間が遅くなってしまい結衣はリコの家にお泊りをすることになるのだが、まあリコから「お泊りの準備も一応してきてね」と言われていたため問題はなかった。









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